「やるしかないんだから!夢じゃないんだから!」
渚はそう自分に言い聞かせながら奥へと歩を進めた。
(前の話、創世の竪琴その12は、ここをクリック)
「イル・・・・あとどのくらいなの?」
「その角を曲がれば扉があるはずだ!それが地下神殿への入口だ!」
ここまで来るのにどのくらい時がたったのだろう・・2人は、ただひたすら、群がってくるモンスターを倒しながら、通路を駈け続けていた。
イルの精神力も、もう底を尽きかけていた。いい加減モンスターから開放されたい気持ちの二人だった。
が、次から次へとどこからともなく出てくるモンスター。
目的の扉を目の前にしていても、そこまでがすごく遠く感じられた。
渚はまだ玉の魔法さえ発動できるようになっていなかった。
イルの後ろに隠れながら、イルの攻撃を避け襲ってくるモンスターに目を瞑って短剣を振り回しているくらい。
もっとも洗礼を施された短剣なので触れただけで結構ダメージは与えられたのだが。
「走れ、渚っ!その短剣を扉の中央でかざせば開くはずだ!モンスター共は俺にまかせろっ!早くっ!」
扉のある方向のモンスターを最後の精神力を振り絞り、魔法で一掃するとイルは叫んだ。
反対側からは別のモンスター集団が近づいてきている。
「で、でも・・・」
「早くしろっ!」
「チュララッ!」
イルの援護をするとでも言うようにララが渚の肩からイルの肩へ飛び移り、渚に早く行くように叫んだ。
「イル・・・これ!ララも頑張ってね!」
「チュチュラ!」
いくらなんでも年下のイルをモンスターのまっただ中へ置いて自分だけ中に入る事に気が引けたが、そんな事を思っていること事態が甘いんだ、と判断し、渚は魔法の玉の入った袋を手渡すとイルの背中から離れ、扉に向かって走った。
扉の中央で短剣をかざす。すると、音もなく扉が開く。
「イルっ・・・・早くっ!」
渚は扉の中へ駆け込むと同時にイルの方を振り向き叫ぶ。
イルはまだ小山の様に群がるモンスターと戦っている。
「早くっ!」
再び渚がそう叫んだ時だった、扉はイルが入るのを待たず、開いた時と同じように音もなく閉まった。
「ど、どうして?どうして閉まっちゃうの?開けて、もう一度開けてよお!」
短剣をかざしても扉は二度と開く気配は全くない。渚は必死の思いで扉を叩いた。
が、扉は固く閉ざしたままびくともしない。
「イルッ!イルッ!」
扉を両手で叩きながら叫ぶ。
「渚っ、行けっ!行くんだ!俺は・・大丈夫だっ!」
「イルッ!」
「早くっ!地下神殿で眠る守護獣を眠りから覚ますんだ!そうすればモンスター共は一瞬にして消え失せる!急げ、渚っ!」
「イルゥゥゥゥッ!」
意を決して渚は泣きながら暗い通路を奥へと走り始めた。
引き返す事はできない、自分の出来ることは奥へ行く事のみ。
女神の武具を手にいれ、守護獣を目覚めさせなければ!
渚は自分に言い聞かせながら通路の行き止まりにあった階段を駆け下り始めた。
「どうやら・・・おじいは大丈夫じゃなかったらしいな。封印に気力も生命力も使い切ってしまったみたいだ。杖に宿った力も僅かなんだろう・・・身体がおかしい・・・扉が閉まってしまったという事は・・・・。」
扉の前でモンスターと必死で攻防を繰り返していたイルは、考えたくない結果を予想していた。
「う、うわあーっ!」
突然、イルの身体から閃光が走り出、辺りは光に包まれた。
「はあ、はあ、はあ・・・・いったいどこまで続くんだろ、この階段?」
その螺旋階段はいくら下りてもきりがなかった。暗闇のなか、手すりを頼りに、渚はとにかく必死の思いで駆け降りていた。
「も、もう駄目、これ以上走れない・・。」
もう足の感覚がなくなってきていた。まるで棒のようだ。心臓も今にも止まりそうに大きくそして、これ以上早く打てないほどの早さで鼓動している。口もからから、足がもつれて今にも転びそうな感じでようやく歩いている状態。
「ま・・・まだあるの?」
手すりにもたれかかり目の前に続く階段を見つめた渚は、もう少しで終わることに気づいた。
「あ、後少し・・・・・」
息も切れぎれ、できたら少し休みたい渚だったが、イルの事を考えるとそうもいかない。
渚は歯を食いしばり、硬直したように感覚のなくなった足を踏みだした。
「き、きゃああああ・・・・」
残りの階段をその最後まで滑り落ちた。
「い、いったあ~い!・・・・・でもおかげで下へ着いたみたい・・・・」
渚は回りを確認し、階段の終わりと反対の壁に扉を見つけると、急いで駆け寄る。
但し、足は相変わらずがくがくだし、息も上がってるので、彼女の意思とは反してよろよろと、だが。
-カチャリ-
▼その14につづく…
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創世の竪琴/その14・襲い来る守護獣
-カチャリ- (前の話、創世の竪琴その13は、ここをクリック) 鍵はかかっていなかった。 扉を開けると一本の通路が真っ直ぐ延びていた。そこは、それまで暗い階段を下りてきた渚には眩しく思えたほど明るかっ ...