靄の中を相当走ったつもりのイルだったが幻惑に惑わされてでもいたのか、2人は未だに奥への通路の入口に立っていただけだった。
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歩きながら渚は考えていた。
(何故目が覚めないのか、本当に夢なのか、もしかしたらこれは現実?でも、そんなことあり得ない、あるはずがない!
でも・・・・あまりにもリアルすぎる!・・もし、もしマンガや小説のように異世界にスリップしてしまってたとしたら・・・私は・・・これからどうなるの?家に帰れるの?・・・・何か、何かこれが夢だっていう確証がほしい!夢に決まってる!
・・・でも、死にそうに息苦しても目が覚めなかったし・・・)
「渚、どうしたんだ?こわい顔して?」
「う・・・うん。」
いつになく深刻な顔をして考え込んでいる渚に心配になったイルがのぞき込むようにして聞いた。
「どうしたんだ?渚らしくないぞ!」
「う・・・うん。ねぇ、イル、私の腕、折ってみてくれない?」
「な、なんでだよ?」
思いもかけない事を渚に言われてイルは思わず声がうわずってしまっていた。歩きを止め渚をじっと見つめる。
「いいから・・・ヒールの魔法であとは治せるんでしょ?思いっきり痛い思いをしてみたいの。そうすれば・・・それとも・・・」
「そうすれば?・・・それとも?・・・」
「いいから!」
そうすれば夢から覚めるかもしれない、それとも全く痛くはないかもしれない、それならそれで夢だと確信できるはず、とは口に出さず、渚は自分の左腕をイルの目の前に差し出し、きっとイルを見つめた。
「こんな細い腕・・・簡単に折れるけど・・けど、すっごく痛いんだぞ。いいのか?」
「うん!」
イルは何故渚がこんな事を言うのかさっぱり分からなかったが、その渚の態度でそうするしかないと決心し、渚の腕をぐっと握った。
「本当にいいのか?」
ぎゅーっと目を瞑り歯を食いしばって来るべく痛みに備えている渚の腕は、小刻みに震えていた。
「いいから!早く!」
-ゴキッ!-
鈍い音をたてて骨は簡単に折れ、渚はその痛さに思わずイルの手を振り払った。
「い・・・・痛っ・・・・・・痛い・・・痛いぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・」
必死の思いで我慢している渚だったが、涙が見る見るうちに溢れ出てきた。
覚悟していたものの、骨折は初めての渚には堪らなく痛かった。
真っ赤になった腕は見ているうちに腫れ上がってくる。
それでも歯を食いしばり、腕を自分の右手で抱えるようにしてそこに座り込んだ。
「目が・・・・目が覚めない・・・こ、こんなに痛いのに!」
「え?何だって?・・だからよせって言っただろ、こんな事。
これが何になるんだ?今治してやるからな。」
「目が・・・覚めない・・・・痛い・・痛いよお!・・・」
「ほら、渚、こっちを向けって!」
イルは腕を抱えてまるくなってしまっている渚の肩に手を掛け、自分の方に向けさせる。
「ヒ、ヒック・・・ヒック・・・・」
「ったく!泣くなっ!」
目の前で女の子に泣かれたのは初めてのイルは、戸惑いながらもヒールの魔法をかける。
徐々にその痛々しい腫れもひいていき、痛みも消えていった。
が、渚の涙は止まらない。
「いいかげんにしろよ、渚!だいたい何でこんな事させたんだよ?」
渚は泣きながらこれが自分の夢ではないかと思っていた事をイルに話した。
勿論話しても到底理解してもらえないだろう、自分が異世界から来た事とかパソコンだとかゲームの話は除いて。
「お前なぁ・・・夢であるはずないだろ?」
「だって・・・・だって・・・・」
「ああ、もういいから!泣くのはやめろっ!」
様にならない情景だった。
うずくまって泣く17歳の女の子と、どうしていいか分からず彼女の前でうろたえている10歳くらいの男の子。
もし歳相応の男性だったとしたら、ここはやさしく抱きしめて泣き止ませる場面だ。
どういうわけか、ふとそんな事が渚の頭に浮かんだ
。そしてその抱きしめている男性の影にあのゼノーが重なった。
妖しい光を放つ紫の瞳、そのやさしい微笑みが近づいてきて、そして・・・。
「!」
自分ながらどうしてそんな事を思い浮かべるのかと、恥ずかしさを覚えて、渚は勢い良く立ち上がる。顔は真っ赤になったまま。
「な、どうしたんだよ、急に?」
急に立ち上がった渚にイルは余計面食らった。
「な、なんでもないのっ!と、とにかく、今は行くしかないんでしょ?行くしか!」
渚は涙を自分の腕で拭くと大幅に歩きだした。
「ああ、そりゃ、そうだけど・・おいっ!」
女の子の考えは分からないなぁと思いつつ、イルはさっさと歩き始めた渚の後を追う。
「やるしかないんだから!夢じゃないんだから!」
渚はそう自分に言い聞かせながら奥へと歩を進めた。
▼その13につづく…
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創世の竪琴/その13・一人地下神殿へ
「やるしかないんだから!夢じゃないんだから!」 渚はそう自分に言い聞かせながら奥へと歩を進めた。 (前の話、創世の竪琴その12は、ここをクリック) 「イル・・・・あとどのくらいなの?」 「その角を曲が ...