創世の竪琴

創世の竪琴/その4・魔物が出る春の小道

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「行ってきます、おじーさん。」
渚はわくわくしながら、イルの後を追った。
(このシーンにつづく創世の竪琴その3はここをクリック

「わあー、きれい!」

家は山頂近くの森の中に位置していた。そこから続く道は木漏れ日が降り注ぐ木々のトンネルの道。

絡み合う木々。枝の隙間からは真っ青な空が見える。
家の前から村に向かって続いていると思われる小道の両側は、草と野花の絨毯。

(季節は春か初夏ってところね。)
「うーん、いい気持ち!」
渚はそのすがすがしい空気を胸一杯に吸い込んだ。

「モンスターが出るからな、気をつけろよ。」

「ええっ、こんなに素敵な所なのに?」
渚はイルのその一言で、せっかくのいい気持ちもどこかへ吹っ飛んでしまう。

「どんなにいい所でも、出るものは出るんだよ。あまり離れるなよ。一応これ渡しておくからな。」

そう言ってイルが渚に渡したのは、使いこなされた登山ナイフ。

「それと、これを腰につけておけ。ナイフを入れておいてもいいしな。」

ちょっと刃先に触れるだけで切れそうなナイフを持たされて、落ちつかない渚の態度に気がついたのか、イルが自分の腰につけていたなめし革で作られた腰袋を差し出した。

渚はそれを受け取ると、ナイフの刃がしっかりと鞘に収まっているのを確認してから袋に入れた。

「そんなにきょろきょろしなくても大丈夫だって!」
くくくっっと笑いを堪えながら自分を見ているイルを少しにらんでから渚は答える。

「だって、モンスターが出たら・・・。」

「真っ昼間からモンスターは滅多に出ないさ。そうだな、出ても蜘蛛とか蛇とか、だな。」

「蜘蛛・・・・・・蛇?!」

「ん。夜なら別だけどな。でもまぁモンスターって言えるかもな?何て言ってもでかいから。」

「で、でかいってどのくらい?」

「そうだな、蜘蛛の場合なら、でかくて俺たちの頭位の大きさかな?種類によっては毒を持っているからな、気をつけないと。蛇はだいたい2メートルから10メートルってとこだ。
だけど、だいたいこっちから脅かすとか、腹の空いている時以外は何にもしないからな。どおってことないと思うぜ。」

「イ・・・・イル・・・・・・。」

「何だよ?気色悪い声をだして?」
渚にとって蜘蛛と蛇は大の苦手なのである。
ただでさえ苦手だというのに、大きさが大きさだ、渚は恐怖で真っ青、声は完全にうわずっていた。

「わ、私、家でおじいさんと待っていた方が・・・・・。」

「駄目だって。俺の留守のうちに男の餌食になりたいってんなら別だけどな。」

「え・・餌食って・・・。で、でもおじいさんがいるでしょ?」

「だーめだ、昔はえらく腕のたった魔導士らしいが、今じゃただの薬師のじいさんだ。
それにいつも今時分から昼寝するんだ。
一端寝ると滅多なことじゃ起きないんだな、これが。
それに一度顔を見て覚えてもらえばこの辺りじゃ、お前に手を出す奴もいなくなるしな。
まあ、よそもんなら別だけどな。」

「覚えてもらうって・・・私の事?」

「そう。」

イルは、にたにたして渚の方を見ている。
彼女は何かイルの都合のいいように、はめられているような気がしてきた。
それと同時にギームの言った『所有物』という言葉が頭に浮かんできた。

「いやならいいんだけどな、・・いやなら。」
いたずらっぽく目を輝かせながら渚を見る。

「行かなくても男達が順番になんだかんだと言って顔を見に来るだろうしな。
なんと言ってもニーグは黒の森に一番近い村なんだ。
魔導士が一番始めに手をつけた事は言うまでもない・・・娘が1人もいなくなってもう・・・・かれこれ・・・」

(ギ、ギクッ)

蜘蛛や蛇もいやだけどそれもいやだと渚は思った。

「大丈夫だって、蜘蛛や蛇も滅多に出ないからさ!」

足を止めた渚に少し脅しすぎたなか、と思ったイルは、振り返ると元気づけるように言った。

「う・・・・うん。」

夢の中だからいくら噂になろうと公認になろうといっか、と渚は思い、蜘蛛と蛇に出くわさない事を祈りつつ、イルの横にぴったりとくっつきながら歩き始めた。

(でも、やっぱりどうせなら、年相応の・・・・)

並んで歩いてみて、渚はイルの身長が思ったよりあることに気づく。だいたい彼女の肩くらいだ。
それに山で暮らしているせいか体格も結構がっしりしている。
ちょっとやせ型だが、日に焼けていかにも健康的な少年といった感じ。

(顔だって悪くはないし・・・もう少し歳が上なら申し分ないんだけどな。)

「どうしたんだ、渚?」

「う、ううん、別に。ただ、今のところ何にも出ないからよかったって思ってたの。」
渚は慌てて目をイルから反らしながら言い訳する。

「ま、出てこない事を祈ってるんだな。」

(ど、どうか、何も出てきませんように!)

「クククククッ……」

心の中で手を合わせたのだが、どうやらイルには手に取るようにわかったようだが、一応遠慮して笑いをこらえてくれてはいるが、そこが余計馬鹿にされているようで渚は、はずかしいのと怒りとでごっちゃになった。

「な、なによ?!何がおかしいのよ?苦手なものは苦手なんだから、しかたないでしょう?」

「いや、苦手なものはオレにもあるから馬鹿にして笑った訳じゃない。ただ…」

「ただ?」

「ただ、かわいいなって思ったんだ。強がり言ってても、やっぱ女の子だなってさ?」

「あ・・・・」
あんた(イル)みたいな子供に言われたくないと口から飛び出そうなセリフを飲み込む理性は、どうやら渚にはあったようだ。

「あ、あのね、い、今更おだてたって”モノ”扱いは認めませんからね!」

「おだててなんかいねーぜ。マジ、渚ってかわいい。今みたいにムキになってると特にな?」

(こ、子供のくせに!大人をからかわないでよね?!)

大声で怒鳴りたい気持ちをぐっとこらえ、渚は、イルのあとについていく。ここで怒らせて一人取り残されるのはイヤだからだ。

(ふう…あとどのくらいで村に着くんだろう?森の中じゃ何も見えないわ。)
(どうか、蜘蛛も蛇も…ううん、魔物とかおかしなものは、出ませんように!)

▼その5につづきます。

創世の竪琴/その5・冒険が始まる予感?

(どうか、蜘蛛も蛇も…ううん、魔物とかおかしなものは、出ませんように!) イルの後を心の中で両手を合わせて祈りつつ渚は着いていく。 (このシーンにつづく創世の竪琴その4はここをクリック) 「もうすぐだ ...

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