洋一を救い元の世界に戻すため、襲名の条件を魔族に提示して、闇の女王としてこの世界にとどまることにした渚。
宴会で彼らと打ち解けたその翌日、イオルーシムに会いに人間界へと転移させてもらう渚の心は逸る。
月神の娘/10・行方不明のイオルーシム
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら)
(月神の娘のこの前のお話は、ここをクリック)
イオルーシムの元へまっしぐら
(イルーーーー!)
そして、魔族との大宴会の翌日?・・・・果たして一夜明けたのかどうか、そして、それが一夜だったのかそれとも数日過ぎていたのか分からなかったが、ともかくぐっすりと眠り、二日酔いが醒めてから渚は、水鏡を通って人間界へと来ていた。
(あと少し・・・この茂みを抜ければ家が見えてくる。)
森の中の狭い道を走る渚の心は期待で弾み、心臓は、走っているせいとイオルーシムに再会できるというその期待との両方で、飛び出しそうなほど激しく大きく鼓動していた。
息が切れてきても足はそのスピードを落とそうとしなかった。
はやる心に乗り、足は、渚は走り続けていた。
そして・・・
「はーはーはー・・・」
渚は山間に立つその家のドアを前にしばらく立っていた。
このドアを開ければイオルーシムがいる。
忘れようとしても忘れられなかった恋しい人、イルが。
渚は呼吸が落ち着いてくるのを待って、今一度大きく深呼吸する。
ドアを開ければ、きっと驚きと喜びが混ざったようなイオルーシムと会える。
自分自身、嬉しさとそして、恐いような気がしてドアを開けようとした渚の手は、その直前でまたしばらく止まっていた。
(ふう…)
大きく深呼吸をしてからドアに手をかける。
-バタン!-
「イルっ?!」
勢いよくドアを開け、イオルーシムの名を呼びながら入った渚の目に写ったのは、がらーんとして静まり返った部屋。
「・・・・イル?・・・いないの?」
奥にあるキッチンを覗く。
両サイドのドアを開けてみる。
天井裏への梯子を登ってみる。
だが・・そこにはイオルーシムの姿も、渚になついていたベビースライムのララもいない。
しかも、ここ数ヶ月誰も使っていないような状態。
「イル・・・ここで待っていてくれてるって思ってたのに。どこか行ってるの?」
呟いた渚ははっとする。
もしかしたらニーグ村に下りているのかも知れない。
渚はその事に気付くと、くるっと向きをかえ、家を走り出た。
「村にいるのよね、きっと。・・でも、いなかったら・・・・」
走り始めた渚の思考を、ふとそんな不安がよぎった。
(ううん・・きっといるわ。だって、一人でいるのって寂しいから。
村には村長さんやカーラや・・・ギームはいないけど・・見知った人たちがいるんだし、きっとララと一緒に村で賑やかに暮らしてるのよ。・・きっとそうよ・・・・きっと・・・。)
頭を振って不安を吹き飛ばし、渚は転がるように山道を駆け下りて行く。
ニーグ村へ
「あ・・あれは・・・あれは、確か・・・」
勢い良く村へと走り込み、そのまま尊重の家に走る渚。
その渚の姿を目に止めた村人は思い起こしていた。
今少しで消滅するところだった世界を救ってくれたあの少女、月神の巫女だと。
「ごめんください!」
渚は村長宅の玄関先で息を切らしながら声をかけた。
「渚!」
「カーラ!」
戸を開けた村長夫人であるカーラの表情が驚きから笑顔に変わる。
「いつこっちへ来たの?」
「少し前よ。ねー、カーラ、イルはどこなのかしら?村にいるんでしょ?」
「え?」
会ったばかりでそんなことを聞くのもどうかとためらわれたが、渚の口から出た言葉はそれだった。
「どこって・・・・あなたのところに行ったんじゃ?」
「え?」
今回聞き返したのは渚だった。
「と、とにかくお入りなさい。」
渚を見かけた村人の口からあっと言う今に村中に彼女が帰ってきたことは知れ渡り、1人、2人と村人が集まってきていた。
カーラは渚の陰った表情に悪い予感を受け、慌てて中へと入らせる。
「カーラ・・・イルは?・・・・」
居間に座ると同時に渚は今一度イオルーシムの事を口にした。
他のことなど目に入らない。
カーラはそんな渚に、飲み物を持ってくるからと目配せで話すとキッチンへと向かう。
どうやら再会を手放しで喜んでいられそうもない、と思いながら。
「そうね、2月ほど前だったかしら・・・毎日のように山から下りてきていたイルが顔を見せなくなったのは。」
カーラは渚をじっと見つめながら話しはじめる。
「それでね、おかしいと思って村人に見に行ってもらったの。
病気でもしてるんじゃないかって思って。そうしたら・・・」
「そうしたら?」
「家はもぬけの空っぽだったのよ。
何もかもそのままで、ただ住人がいない、そんな感じだったの。」
「そ、それで?」
「分かっている事はそれだけよ。
イルは礼儀正しい子だから、黙って急にいなくなるわけないのだけど・・・でも、ひょっとしたらあなたに何か急な事があって、村まで来る暇なく、そのままあなたのところに行ったんじゃないか、って、うちの人と話してたのよ。」
だが、それがそうではなかったと目の前の渚の表情から、カーラは、そしてカーラの横に座った村長も悟る。
「じ、じゃー、イルはどこに・・・?」
渚の沈んだ口調の質問に2人は答えることはできなかった。
▼月神の娘・その11へつづく
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続・創世の竪琴【月神の娘】11・国賓として
イオルーシムがどこにもいない? ニーグ村で姿を目にされた渚のうわさが尾ひれをつけて国内外に広がる。 国賓として王宮に招かれた渚は、救世の月巫女として本人の意思とは裏腹にますます神格化されていく。 月神 ...