月神の娘

続・創世の竪琴【月神の娘】9・『闇の女王』襲名の条件

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パソコンのゲーム画面から異世界の、しかも闇世界にある浮遊城に召喚された渚と元パソコン部部長の山崎洋一。
現実だと言い張る渚に、夢としか思えなかった洋一だが、魔族の出現により、現実だと肌で感じた洋一は、消え入りそうな自分の命を感じて思わず渚を責める。
そして…

月神の娘/9・『闇の女王』襲名の条件

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら
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リアルすぎる夢

「オ、オレ・・・・」

洋一はハッとして顔を上げた。
そこは自分の部屋。
洋一は机に俯せの姿勢で気を失っていたらしかった。

それとも寝ていた?と考えながら、洋一は渚と一緒だったことを思い出し、慌ててパソコンの方を見る。

「桂木・・・・」
そこに座っていたはずの渚の姿はなかった。

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「洋ちゃん、ごはんよ~!」
階下から母親の声がし、洋一は不思議な面もちで下りていった。

「まったくせっかく渚ちゃんが来てくれたっていうのに、洋ちゃんったら寝てしまうなんて・・・・」

「そうよ、お兄ちゃん!何してんのよ?
せっかく寄ってくれたのに、桂木さんも呆れて帰っちゃったじゃない?
もう来てくれないわよ?」

「え?・・・桂木、帰ったのか?・・自分の家へ?」

「お兄ちゃん?!」

何を寝ぼけてるんだ!ときつい視線で洋一を睨む妹の多香子。
だが、洋一に多香子の言葉も母親の言葉も入っていなかった。

「あれは・・夢?」

確かに最初は夢だと思っていた。
だが・・・あれは……

ーペタペタペタ…ー

静けさの中にスリッパを履いた洋一の足音だけが響く。
ゲームにあった闇の城そっくりとしか言いようのない建物内を洋一はあちこち歩き回っていた。

「ホント、いつまでたっても桂木のやつ、夢のようなことばかり言ってやがって。いい加減ゲームの勇者様じゃなく、現実を、近くにいるオレを見ろっての!」

1人勝手なことを言いながら目の前にあった大扉を開ける。

「な…なんだ、こいつら?」

無人だったそこに異形の顔が、どれも洋一の1.5倍から倍の大きさの、異様なまでの威圧感を持った魔族としか言いようのない輩の姿がそこにあった。

ーヴン…グシャッ!ー

「痛っ………」

異形の魔族を視野にとらえた次の瞬間、その中の1人が飛ばしただろう攻撃波によって、洋一はその全身をしたたかに壁に打ち付けられる。

「かはっ!」

その打ち付けられた衝撃に、骨が粉砕され、内蔵が破裂したのだろうか、それまで体験したことの無い激痛とともに洋一は血反吐を吐く。

「ぐ…」

激痛の中、のど元をわしづかみにされる感覚に改めて洋一は恐怖を覚える。
その脳裏に渚の叫び声が聞こえる。

『夢じゃないのよ!現実なのよ!』

(か、桂…木?)

《月姫様はどこにおられる?》

(つ、月姫…って、か、桂木の…こ…と?)

激痛と呼吸ができない苦しさの中で洋一は考える。
聞くだけでそのおぞましさに全身が震え上がるほどの魔物が発する声を耳にして。

《案内(あない)せよ、我らが月姫様の御前に。》

洋一の首をつかむ手に力を今一度入れると、ミノタウロスの顔を持つ異形の魔族は、壁から洋一を引きはがし、くるりと向きを変えさせる。

《人間ごときに我らが月姫様を良いようにはさせぬ。》

洋一は、そのごつく大きな手で息が苦しいほど固く握られたまま、渚のいる尖塔、月神の間へとおぼろげない足取りで引き立てられるようにして案内していった。

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そうだ、オレは首を付け根あたりからその魔族に握られ、桂木のところまで案内したんだ。
痛みで気が遠くなりそうだったことより、恐かった。
息苦しくこのまま死ぬんじゃないかと感じることより、恐怖に支配されていた。
このまま引き裂かれて食われてしまうんじゃないかと…。

夢…なんかじゃないと…全身で感じた…。

それが、全部
最初思ってたとおりに?

夢とは思えなかった。
そのリアリティーさと、そして・・・。

「そうだ!オレ・・桂木に・・・。」
酷いことを言ってしまった、と夢ながら洋一は後悔する。

「夢だから・・・いいんだよな。
・・だけど普通あの場面・・責めるんじゃなく、桂木の事を心配すべきなんだよな・・・。
帰れないのは桂木も一緒なんだし。
だいたい桂木のせいじゃなくて・・・桂木も戸惑ってるに決まってるのに、不安に違いないのに・・。」

男なら、そして、渚に惚れているのなら・・と洋一は後悔した。

「オレってやつわぁ~~~!!」
わしゃわしゃっ!と洋一は自分の頭をぐしゃぐしゃにする。

「結局オレって意気地なしの自己中?」
思わず自分を嘲笑する。

実際にあるわけがない出来事だった。
だから、その夢の中で現実だと感じた事もまた夢なんだ、と洋一は反省しながらもそう考えていた。

「お兄ちゃん!いつまでもぼ~っとしてないで、目が醒めたんなら、桂木さんに電話でもして謝ったら?」

「あ・・・そ、そうだな。」

多香子の言葉に、洋一はもっともだ、と思う。
夢での自分の言葉や態度は、夢だからいいとして、せっかく来てくれたのに眠ってしまったのは、最悪且つ最大の失態。

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闇の女王襲名の条件

「あ、もしもし・・ぼく、山崎って言いますけど・・・」

カッコ悪いと思いつつ、それでも一応電話してみた。
洋一も渚も携帯は持っているのだが、渚の携帯番号は教えてもらえていなかったからだ。

が、渚はもうすでに寝てしまっているらしく、何度呼んでも返事がないとかで電話口にはでなかった。

「本当に寝てるならいいけどね。」

受話器を置いた洋一に、本当は怒って出ないのかもよ?と目で抗議する多香子に焦りと不安を感じていた。

だが、やってしまったドジはどうしようもない。
明日また電話か、それとも家に行ってみるか、と思いながら洋一はのろのろと食事をするためテーブルについた。

その頃浮遊城では

「よかった。」

闇の浮遊城の地下にある水鏡が映し出したその様子を見ながら、渚はようやくほっとしていた。
これで洋一に迷惑をかけずにすんだと安心する。

「月姫様。」

『月姫』と声をかけられた渚はすぐ横に立つミノタウロスに視線を移す。

月姫とは、闇の女王のもう一つの呼称であった。
女王の本当の名を口にしていいのは他ならぬ闇王のみ。
他の者は女王、もしくは月姫と呼んでいた。

「これで本当に我らが為にここに留まっていただけますでしょうか?
他でもないあなた様自身のご意志で、この先ずっと我らが闇の女王として。」

ミノタウロスの質問に、渚は静かに頷いていた。

洋一が倒れ、十数名の魔族を前にしばらくは震えていた渚。

だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
それに、彼らから敵意や殺意などは感じられなかった。

自分に対して静かに向けられているそれは確かに敬意だと感じた渚は、思い切って洋一を元の世界に戻せないものかと一番近くにいたミノタウロスに聞いてみた。

その結果、幸いにもまだ息のあった洋一をすぐさま回復させ、渚自身も急に姿が消えたことから大騒ぎにならないよう一旦元の世界に戻り、自宅へ帰ってから再び浮遊城へと戻ることができたのだ。

そして、・・・多少?やけっぱちという気がしないでもないが、開き直った渚と魔族の主だった者とのお近づきの宴会が催された。
彼らは渚を気遣い、わざわざ人間界の食料までも用意してくれていた。

「ぶわっはっはっはっは!
これであとは闇王様さえ見つかれば、この世界も安泰というもの。」

「そうですな。月姫様も逝かれてしまったときは・・どうしたものか、と不安でしたが、これで大丈夫でしょう。」

「で、新たなる我らが女王、新月姫様には、闇王様となられる方のお心当たりなどはございますのでしょうか?」

「え?」

恐ろしい異形の面々だったが、それぞれ酒を呑み、食事をしながら和やかに談笑している様子に、完全には不安を消し去れない渚ではあったが、落ち着いてはきていた。

そして、急に問われ思わずどきっとする。
当然聞かれたと同時に渚の脳裏にはイル、つまりイオルーシムの姿が浮かぶ。

「あ・・そ、それはその・・」
頬を染め下を向いた渚に、魔族たちはお互いを見合って目を細める。

「お心当たりがあるのでしたら、その座をめぐっての争いという懸念もなくなります。
早急にその方を迎えに行かれてはどうでしょう?」

「え?私、ここを離れてもいいの?」

「闇王様を迎えに行かれるのです。誰が反対しましょうや?
それにあなた様は我らが為、ここにいて下さると申されました。
月姫様のおっしゃることに嘘偽りなどあるわけもなく、それ故、我らは安心してお待ち申し上げるというもの。」

馬の顔を持つその魔族の瞳は渚を心から信用している光があった。

「そ、そう・・・え、えっと・・じゃー・・」

「今、人間界は夜の帳に包まれておりますれば、もう少し我らが喜びにお付き合いくださり、その後ご出発されたらいかがですか?」

「そ、そうね。そうするわ。」

夜でもイオルーシムのところへ行けるのならすぐにでも出発したかったが、そう言われてそれを押し切ってまで行くのは気恥ずかしく、渚はもうしばらくその席で魔族との談笑につきあうことにした。

そして・・・・

「うーー・・・頭がガンガンする・・・・」

喜びに沸いたその席。
危害を与える意思はないと思いつつも、その異形の強面が次々とワインやビールを注ぎに来くれば、断る結城も出ず、結構飲んでしまった渚は二日酔い。

宴会の最後には、すっかりうちとけ、(アルコールの助けがあったことは否定できない)スケルトン兵士の剣の舞いやバインと半透明のジェルスター(クラゲ風浮遊魔族)のなまめかしい(?)踊りに、やんややんやの大喝采の中、渚もすっかりその輪の中に混ざっていた。

彼らもそれまでのシアラの場合と違い、渚のきさくさにすっかり引き込まれ、完全にうちとけていた。

そこに、人間と魔族という種族間の壁はなくなっていた。

 

▼月神の娘・その10へつづく

続・創世の竪琴【月神の娘】10・行方不明のイオルーシム

洋一を救い元の世界に戻すため、襲名の条件を魔族に提示して、闇の女王としてこの世界にとどまることにした渚。 宴会で彼らと打ち解けたその翌日、イオルーシムに会いに人間界へと転移させてもらう渚の心は逸る。 ...

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