闇の紫玉

闇の紫玉/その11・闇世界の浮遊城

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シャンナの仇だと狂気に支配された村人の手にかかって命を落とした…ように見えたゼノー。
そのゼノーをやさしく抱き留めた闇の手があった。
人間ではないその手の主、ねじれた角を持つ異形の闇の住人は、ゼノーを闇世界に連れて行き手厚く看護した。

闇の紫玉、その11・闇世界の浮遊城

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

闇の浮遊城

「大丈夫ですか、ゼノー様?」

起きた気配はするものの、なかなか顔を見せないゼノーを心配しているかのように、再び声がした。

ゼノーは、そっとベッドを囲ってある薄絹の幕を開け、声の主を見た。

「お前は・・・・」
そこに立っていたのはゼノーを助けてくれたあの黒水牛だった。

「ご無事でなによりでございました。」
黒水牛は、ゼノーの前に跪き畏まって言った。

「お、お前がここに運んでくれたの?きれいにしてくれて、傷まで治してくれて。」

「はい、ゼノー様。」

「ありがとう。でもここは、一体どこ?リーは?リーは一緒じゃないの?」

ゼノーは周りを見渡した。
そこは、それまでゼノーが見たこともない広い部屋だった。

床、壁、天井、全て紫水晶でできており、ゼノーや黒水牛の姿、部屋にある黒壇のテーブルやイス、ベッドなどの調度品を映していた。

明かりは四隅にある松明だけで、すこし部屋全体が薄暗かったが、そんな事はゼノーにはさして気にならなかった。

「ここにいるのは、あなた様だけです。
ここは、あなた様の居城となる所です。」

「ぼ、僕の居城?」

「はい。ここは、闇の世界の浮遊城、闇王の居城です。」

「や・・闇王?」

「はい。」
黒水牛は、うやうやしくゼノーの手を取ると、その部屋を出てバルコニーへと案内した。

初めて見る「闇世界」の風景

確かに闇の世界、魔界らしい、とゼノーは思った。

そこには太陽も月もなく、空は青くもなかった。

赤と黒と黄色の空。
そして、眼下には茶と灰色と黒の広大な草原と森が広がっていた。

冷たい風が心地よく、ゼノーはしばらくそこに立ち、景色を見ていた。
不思議とリーの事は全く気にならなくなっていた。

「どうぞこちらへお掛けください。」

どこから持って来たのか、いつの間にかテーブルとイスが用意してあった。
そして、その上には温かい飲み物が用意されてあった。

「薬湯でございます。気分がすっきりされますよ。」

「うん、ありがとう。」

ゼノーはテーブルにつくと一口飲んだ。
すうっとして爽やかな気分になった。

「名前は何て言うの?」
横に立っている黒水牛に聞いた。

「ゼノー様がおつけください。
私は闇王に仕える者、名前は闇王からちょうだいするものです。」

「ぼ、僕が?」

「はい・・・どうぞ私に名前をおつけくださいませ。」

「じゃ、じゃあ・・・ええと・・黒水牛だから・・・・・ブラコス・・てのどお?」
自分が闇王というのは、理解できなかったが、とにかく、ゼノーはしばらく考えてから言った。

「ブラコス・・・ありがとうございます。」
ブラコスはうやうやしくゼノーに礼を取る。

「じゃ、ブラコスもここに座ってよ。あっ、イスがないか・・・」

一人だけ座っていたのでは、どうも落ちつかないゼノーはブラコスにも腰掛けることを薦め、最初躊躇していた彼も、ゼノーの再三の薦めに負け、呪文を唱えてイスをそこに出すと腰掛けた。

「すごい!呪文でイスが出せるんだ。じゃ、これもそうしたの?」

「はい、そうでございます。」

ブラコスとゼノーはそこで長い時間、話をしていた。何故ここにゼノーを連れてきたのか、何故ゼノーを闇王と呼んだのか。
それは、ゼノーが思いもつかなかった話だった。

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崩壊へと進む闇世界

闇の世界にとって闇王はその世界そのもの。

闇に生きる者の糧のみでなく、その大地、空気、水、草木、その他全ての物は闇王の力によって息づいている。

が、約千年前、地上をも闇で覆わんとした闇王は、月の女神ディーゼの加護を受けし姫巫女に倒された。

そして、その王を失った闇の世界は、徐々ではあるが、その時から崩壊し始めていたのだった。

故に、闇に生きる者たちは、切に自分たちの王を欲していた。
が、ただ単に誰でもなれるというものでも、誰かを王に祭り上げればよいというものでも、決してなかった。

王となる者は、闇を息づかせる力を備えていなければならなかった。

勿論、闇の世界には強力な魔力を持つ知能の高い魔物も多くいた。
が、それだけは闇王となることは不可能だった。

闇を息づかせる、それは、その魔力の源でさえもある。

闇の世界を危惧した闇王に仕えていた魔物たちは、自分たちの世界だけでなく、人間の世界にまでもその能力を持つ次なる王を捜し回っていたのだった。

空席の闇王の座を継ぐモノ

「それが・・・この、僕?」
ゼノーはブラコスの話に目を見張った。

「その通りです。」

「で、でも僕、そんな力は・・・」

「いえ、私には分かります。
感じるのです、前闇王と同じ波長をゼノー様から感じ取れるのです。
それとその瞳。普段のその穏やかな紫と力を放出する時の赤に近い紫、それこそ闇王の瞳。間違いありません。」

「やっぱりこれは・・・魔物の目・・・」
ゼノーはそのせいで散々な目にあった両目を、魔物の目と言われた紫の瞳を無意識に手で抑える。

「人にとっては忌むべき者である私たちは、魔物と呼ばれています。
が、私たちでも生きているのです。
その食する物、あるいは、生活習慣は違っていても、私たちにも命があるのです。
その命ある限り、生きようとするのは当然でしょう?
そして、今、この闇の世界に生きる全ての者にとって、ゼノー様が必要なのです。
ゼノー様はその為に生まれてきたのです。
どうかお願いです、私たちの王になって下さい。
私たちの世界をお救い下さい。
闇世界に希望をお与えくあさい。」

ゼノーはじっと考えていた。

確かに人の世は自分を必要としていない、いる場所が何処にもない。
目の色だけで恐れおののき、挙げ句の果ては殺そうとする。

ただ静かに暮らす事さえも許してはもらえない。
その反対に、ここは自分を必要としてくれる、あたたかく迎えてくれる。

答えは決まっていた。
それまでの体験でゼノーにとって、人間こそが忌むべき存在となっていたのだから。

「僕でいいのなら。・・でも、本当に僕が?」

「勿論です。ただ、真の闇王となる為にやってもらわなければならない事がありますが。」

「やらなくちゃならない事?」

「はい。」

ブラコスは両手を広げると精神を集中し、2人の周りに闇の世界の立体映像を写しだした。

「す、すごぉい!」

ゼノーは写しだされた浮遊城を掴もうと手を延ばした。
が、ゼノーの手は、それを突き抜け空を掴んだ。

「はっはっはっ!それは、ただ空間に写しだされた物、手に取ることはできません。」

ブラコスはその大きな口を大きく開けると初めて笑い、それにつられてゼノーも照れ笑いをした。

それは、ゼノーにとって久しぶりに自然と浮かび上がった笑顔だった。

 

▼その12につづく…

闇の紫玉/その12・闇王への道

闇王となり、崩壊に向かう闇世界の救助をと求められるゼノー。 闇世界だとて住人は人間界と同じように生きている。 その闇世界を救ってほしいと懇願されれば心は動く。 自分を排除した人間の世界と比べ、闇の世界 ...

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