闇の紫玉

闇の紫玉/その2・動き始めた運命の歯車

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荒野の一軒家で、母親と双子の少年3人は、それはそれはほほえましいほど仲良く暮らしていた。
だが、とある事件がきっかけで、なぜ父親から疎まれ荒野に捨て置かれているのかを知り、恐怖心から双子への愛情に亀裂が走る。

母親は、双子の実の母親でなく、父親に雇われた使用人だった。

闇の紫玉その2・動き始めた運命の歯車

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

不作が呼ぶ狂気

翌日ジャンは村へ買い出しに出掛け、ルチアは家事を、双子は外に遊びに、それぞれいつものように過ごしていた。

「お、奥様・・・た、大変です!」
バタンと勢い良く玄関が開き、ジャンが息を切らして飛び込んできた。

「ど、どうしたの?」
居間のソファに腰掛け、繕い物をしていたルチアは驚いてジャンを見る。

「む・・村の衆が・・・・」

「えっ?」
ルチアはそこに座り込んだジャンに駆け寄った。

「坊ちゃんたちは?」

「外に遊びに行ってるわ。」

「は、早くお連れして、逃げなければ!」

「どういう事なの、ジャン?」

「む、村の衆が・・ゼ、ゼノー坊ちゃんを・・・こ、殺しに・・」

「な、何故?」
ルチアはジャンの思いがけない言葉に驚いた。

「と、とにかく、探しに・・」
理由は後でもいい、とにかく2人を探してから、とルチアも咄嗟に判断するとジャンを抱き起こし外に出ようとドアを開けた。

と、すでに遅く、道の向こうから村人の集団が走ってくるのが見えた。

「ジ、ジャン・・」

「お、奥様・・」
2人は足が竦み逃げることもできず、そこに立ちすくんでいた。

ガーニア地方一帯は、その年例年にない冷害で殆ど作物が収穫できなかった。

それでも侯爵の取立は厳しく、農民は自分たちの食料さえもほとんど残らない状態となった。

農民は天候を呪い、侯爵を呪っていた。
荒野から一番近いセルの村も殆どが農民だった。
そしてそのやり場のない恨みの矛先が侯爵の子供である双子に、紫の瞳を持つゼノーに向けられた。

天候不順は悪魔の子のせいだ、悪魔の子がここにいるから、天の恩恵がないのだと。

双子は荒野からは一度も出たことがなかったが、不運にも旅人が見たらしく、双子がここにいるという事を聞いた者から話はどんどん飛躍し、2、3日前から双子を殺そうという意見は、もはや誰にも止められない状態になっていた。

悪い偶然が重なり、様子を見に来ていた若者がちょうど前日のゼノーの様子を見ていたのだった。

そして当然の成り行きとして村人の一部が鬼のようになって襲撃してきたのである。

「ただいまあ!」

勢い良く玄関を開けた2人の目に飛び込んできた光景は、庇いあってそこにうずくまっているルチアとジャンを、5、6人の村人が悪態をつきながら持ってきた竹や棒で叩き続けている様子だった。

「か、母様、ジャン!」

「い、いたぞ!こいつだ!」

双子の叫びと村人の叫びと同時だった。
家の2階や奥へ行っていた他の村人が急いで駆けつけて来た。

リーとゼノーは訳がわからず呆然と突っ立っていた。

「リ、リー・・ゼノー・・」
倒れたルチアが弱々しく呼びかけた。
2人ともすでに顔を上げることもできないほど打ち据えられていた。

「か、母様!」
2人はルチアに駆け寄ろうとしたのだが、回りにいる村人の異様なまでの殺気を感じ取るとその足を止める。

「こ、この悪魔の子!」

「悪魔の子!」
その手に棒や竹を持ちなおすと、村人は2人に襲いかかってきた。

「う、うわあーっ!」

恐ろしくなったリーは頭をかかえて座り込む。

ゼノーはリーを庇うようにその前に立って両手を広げた。
そのゼノーに一斉に襲いかかろうとした村人は、彼の異様な様子に歩を止めた。

両手を広げたゼノーの回りを異様な気が取り巻き、銀色の髪が逆立ち始め、その紫の瞳が妖しく光りだした。

「母様を、ジャンを・・・よくも・・・」

「ヒ、ヒィィィィィ・・・・・」

赤く輝く瞳から発せられるその視線に捕らわれ、まるで呪縛にかかったように村人は身動き一つできなくなった。
その顔は恐怖の為引きつり、死人の様に青ざめている。

様子がおかしいと気づいたリーはふと顔を上げた。

「に、兄様!」
ゼノーの殺意を感じ取ったリーは、咄嗟に立ち上がるとゼノーに抱きつく。

「兄様、止めて!殺しちゃ駄目っ!」
その言葉でゼノーは、はっとして我に返る。
すっとその髪も瞳も元に戻る。

「た・・助けてくれぇ・・・・」

「ヒ、ヒィィィィ・・・」

ようやく動けるようにはなったが、まだその恐怖に支配されていた村人は、ほうほうの態で裏口から逃げて行った。

「母様!ジャン!」

2人はルチアとジャンの所に駆け寄ると心配そうに覗き込んだ。
ルチアを庇い上に被さっていたジャンの息はすでになく、ルチアも息絶え絶えだった。

2人は何とかジャンをルチアの上から退かせると横に寝かせ、ルチアの横にふたり並んで座った。

「母様・・・」

「兄様、母様は?」
リーの問いには答えず、ゼノーは考えていた。

何とか母様を助けたい・・何とか、その思いだけが頭の中を占めていた。

「兄様?」

ルチアの傍に座ったままじっとしているゼノーに、リーは一体どうしたのか、母様はどうなのか、と思いゼノーの顔をじっと見つめていた。

「リー・・・」

不意にゼノーがリーの手を取ると、自分の手を重ねてルチアの胸に乗せた。
その鼓動は弱々しく不規則だった。

「リー、一緒に祈ろう、母様が良くなるように。」

「・・・うん!」

2人はしばらく見つめあった後、ルチアの顔をじっと見つめながら祈った。
手を彼女の胸に充てたまま2人で必死に祈っていた。

「母様、死なないで!良くなって!目を開けてよお!」

「風さん、風さんも祈って!僕たちの母様が死なないように!」

いつも自分が病気で寝ているとき、リーは窓の外の風の音を聞いていた。
まるで、早く良くなって一緒に遊ぼう!と言っているような風の音を。

風はリーにとって一番の友達だった。
リーは思わず風に、荒野に、草木や花に願っていた。
共にルチアが回復するように祈ってくれるように。

と、リーの回りから優しい風が吹き始め、そのうちルチアを取り巻いた。

「風さんが来てくれた!荒野の匂いがする!木や草や花の匂いも!」

リーは思わず叫んでいた。
友達が来てくれた、もう大丈夫だと不思議に感じていた。

2人は目を合わせると、にこっと微笑み再びルチアを見る。
その顔は少し赤みが差してきたように思えた。

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悪魔の子

そうして、しばらく経ち、風が止むとルチアがその目をゆっくりと開けた。

「母様!」

2人が喜んでルチアに飛びつこうとした時だった、ルチアはその目に恐怖の色を浮かべ、そのまま身体をずるようにして部屋の隅に身を寄せる。

「か、母様?」
2人はルチアのその行動が理解できず立ちすくんだまま見ていた。

「よ、寄らないで・・・化け物・・・」

「か、母様・・・」

2人が必死になってその回復を願った母親の口から出た言葉は、2人にとってそれ以上無い衝撃の言葉だった。
幼い2人にとって全幅の信頼を置く母親からの拒絶の言葉、それは2人の心を深く傷つけ、粉々に打ち砕いた。

ルチアは完全に理性を失っていた。
鬼のようになった村人に打ち据えられてから、そして気が遠くなりかけていく中で再びゼノーの赤い瞳を見てから。

完全に恐怖の真っ只中にある彼女にとって目の前の子供たちはもう自分の可愛い息子たちではなく、悪魔か化け物以外の何者でもなかった。

「わ、私はあなたたちの母様なんかじゃないわ!あなたたちの本当の母様はソマー城にいるの・・わ、私は、違うわっ!」

ルチアは恐怖に震えながら、その命を助けてもらった事にも気づかず、叫んでいた。

「か、母様・・・?」
リーとゼノーはまだ訳が分からず、一歩ルチアに近寄った。

「こ、来ないで!・・わ、私は知らないわ!あ、悪魔の子なんて・・その目で見ないで!そ、その紫の悪魔の目で!」

ルチアはゼノーの歩みを止めるように手で制した。
その声は、手は恐怖で震えている。

2人はしばらくそこに立ちすくみじっと震えているルチアを見ていた。

「リー、行こう。」
その顔一杯に失望感を露にし、ゼノーはリーに言った。

「行くって、何処へ?」
ゼノーと同様、ルチアは二度とあの微笑みを向けてはくれない、ここには自分たちのいる場所はないと悟ったリーは、哀しげに聞いた。

「ソマー城に・・本当の母様に会いに。」

ゼノーはリーに答えるとその口をぎゅっと瞑り、2階に身の回りの物を取りに上がって行った。

「母様・・・・」
まだ隅で震えつづけているルチアを悲しげな表情でちらっと見、リーはゼノーの後を追う。

幼い2人にとって、信じたくない悪夢のような出来事だった。
が、事実は事実、受け止めるしかない悲しい事実を背負い、2人は荒野の一軒家を後にした。

 

▼その3につづく…

闇の紫玉/その3・幼き二人旅

村人の狂気が荒野の一軒家を襲撃する。 母親の窮地を助けようと無意識に少年ゼノーが発した気は、ただごとではなかった。 恐怖に追い散った村人は逃げ返り、なんとか助けた母親も自分は実の母親ではないと恐怖で固 ...

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