リーだけでなく、ファラシーナ、そして優司や洋一と一緒に闇世界へやってきた渚。
初めて出会う魔族に恐れを感じながらも、渚という中間者がいるおかげか徐々になじんでくる。あとは、リーがムーンティア、月のパワーを闇に変えられる力さえあれば万々歳なのだが…
月神の娘/26・闇王2人
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら)
(月神の娘のこの前のお話は、ここをクリック)
賑やかな闇の浮遊城
「すっげ~~~~・・・・」
闇の浮遊城。
優司はそのみごとな紫水晶の作り物に感嘆の声を上げていた。
「なーなー、これ、小さい欠片でもいいから持っていくと、すっげー金になるんじゃない?」
「優司!」
渚はあきれ返りながら優司を睨む。
「な・・なんだよ、冗談だって!」
「ホント?」
「ホントだって。本気で睨むことないだろ?」
「この世界での冒険だっていうのならいいけど、でも、壁を削ったり調度品を持っていくのはやめてよね。
お城からでたところにある原石にしてね。」
「おおーー!姉貴もなかなか話が分かるようになったな。」
「でも、冒険ってね・・・・何かあったら本当に死ぬのよ。危険なのよ?」
「そ、そんなこと分かってるよ。」
「ホントに?ゲームじゃないのよ?
現実なのよ?・・怪我も・・死ぬことだって。」
「分かった、分かった・・・」
渚の真剣な表情が曇ってきていた。
優司は半分呆れながらも、本当に心配してくれてのことだと、からかうのはやめた。
「はっはっは・・・仲の良いご姉弟ですな。」
バッコスの明るい笑い声に、渚も優司も照れる。
浮遊城に到着し、居並ぶ魔族の間を歩くのは、生きた心地もしなかった優司と洋一だが、歓迎の宴会が始まるとそんなものもどこかにいった。
リーはいつものごとく落ち着いており、ファラシーナに至っては、魔族の前でも、異形の面々に囲まれていても、いつものごとく陽気で艶やかである。
そして、それも落ち着き、月神の部屋に全員集まっていた。
ムーンティア
「闇世界を息づかせる月神のパワーか・・・」
ファラシーナは女神の彫像の前にたち、その真上にある天窓からみえる月を見ていた。
「渚がそれを涙に変えて受け取り、それを闇王が自分の中で闇に変え、この世界を維持するってこと?」
「そうらしいわ。」
「ふ~~ん・・・あたいが泣いてもだめなんだね?」
「ファラシーナができたら、私、ここへ来る必要もなくなるんだけど・・・」
突然顔をしかめ、涙を一粒二粒こぼすファラシーナ。
「だめだね・・・普通の涙だよ。」
それを手にとってファラシーナは残念そうに笑う。
「そう簡単にできるものではありません。」
バッコスが少し厳しい表情で言った。
「月姫様が何人もいるというものでもないのですから。」
「バッコス・・・」
バッコスはファラシーナから渚に視線を向けると続けた。
「同様に闇王様も同じなのです。
失くしたからといって、見つかるものでもない。
そして、見つからなかった場合は・・・・」
「バッコス?」
そのバッコスの表情がいつもより陰りを帯びていることに渚は気付く。
「は。・・月姫様に隠しても・・いえ、隠すべきでも、隠し通せることでもないことは承知しておりますが・・・。」
「もしかしたら、シアラの思念が弱まってきている?」
バッコスの言葉尻をとり、渚は先に口にしていた。
「月姫様・・」
それは、再び崩壊が、漆黒の虚無の空間が広がりつつあることを意味していた。
それ以上言わなくても、渚には分かっていた。
浮遊城へ、闇世界へ着くと同時に、闇の気配が以前より弱まってきているとすでに渚は感じていた。
「どうしたら・・・?」
闇王さえ見つかれば、即解決することでもあった。
が、それらしき人物は・・・・。
「シアラ・・・・」
月を見上げた渚の瞳から、ポトリ、と涙が流れ頬を伝って落ちながら、それは銀色の玉に変化していく。
-コロロ・・-
そして、もう一つ。
「ふ~~ん・・・これが姉貴にしか出せないっていう月神のパワーを秘めた涙の石?」
「これがそうなのですか?」
足下に転がってきたその石を1つずつ拾いあげる優司とリー。
と、その瞬間・・・。
「あ・・・・・」
「こ、これは?」
渚もそして、バッコスも驚いていた。
2人が拾い上げた瞬間、闇の気が少しだけだが強まったのだ。
「あ、姉貴・・石、消えちゃったけど?」
「私が手にしたのもですが・・・?」
驚きで、しばし無言のまま全員見つめ合っていた。
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闇王の親族
「つまり・・・・」
洋一が口を開いた。
「優司君とリーさんの2人ともその資質がある?」
「そ、そのようなことは・・・・時同じくして闇王が2人現れるなど・・・」
「だからさ、闇王とは言えないかも知れない。」
「部長・・それはどういう?」
洋一は渚を見つめながら答えた。
「闇王となるだけの力はないが、補助としての力ならある。
というところじゃないかな?
もしかしたら、まだ最初だからかもしれないけど、これから闇王として成長していけば、なりうるかもしれない。」
「闇王に?」
「ああ。」
渚の質問に洋一はもっともらしく頷く。
「優司が?」
「優司君か・・リーさんか・・・または、2人とも?」
「そ、そのような事が起きては!闇王様がお二人などと!」
焦りを隠しきれず、バッコスが叫ぶ。
それは、力のある魔族が1人ずつ新闇王を擁護し、その支配権を主張したとしたら、闇世界は2つに割れることになる。
そんなことは誰しも願ってはいないはずである。
が・・・断言はできない。
「あたしはそうは思わない。」
「え?じゃー、ファラシーナはどう思ってるの?」
大輪の花のような笑顔をみせ、ファラシーナは自信を持って言った。
「闇王じゃないんだよ、2人とも。
だけど、そうだね、リーは、前闇王であるゼノーの弟、そして優司君は、現月姫である渚の弟だろ?
闇王と月姫の血縁者なんだよ。
だからできるんじゃないのかい?」
「・・血縁者・・・。」
渚は、いや本人達以外全員、優司とリーを見つめていた。
「渚、今一度涙玉を、ムーンティアを作っていだだけますか?」
「あ・・は、はい。」
リーに頼まれ、渚は1粒、その瞳から流す。
それをリーが拾いあげても変化はみられない。
「姉貴、オレにも。」
「ええ。」
つまり、2人揃っている事ではじめてムーンティアを闇の気に変えることができる、ということがその実験でわかった。
リー1人でも、そして、優司1人だけでも、涙石は、なんの変化もみせなかった。
「一応、闇王の代理はできたってこと、だよな?」
洋一の言葉に、全員黙って頷いていた。
「よかった・・・これで崩壊は止まるわ。」
微笑んだ後、渚はゆっくり前のめりに倒れた。
「姉貴!」
「桂木!」
「渚!」
「月姫様!」
「一人でなんとかしようと気を張ってたんだね・・・。」
一番近くにいたリーに抱き上げられる渚を見つめながらファラシーナが呟く。
「頑張り屋の渚らしいんだけど、そこが渚のいいところなんだけどさ・・。」
「そうですね。」
「だ、大丈夫なのか?」
リーが盲目だということを思い出し、洋一は心配する。
が、本音は・・・気絶してるとしても渚を腕に抱えられたくはなかった。
リーはそんな洋一の気持ちを知ってか知らずか・・にこっと微笑む。
「大丈夫です。目はみえませんが、精霊たちが教えてくれています。
時には目の見える方に見えないような事まで見えますよ。」
「あ、そ、そうなんだ。」
そういえば、大学で渚が気絶したとき、保健室までも運ぶことができなかったことを思い出し、洋一は、面白くはないが、自分にその役目が来なかったことにほっとしてもいた。
途中で、腕が痛くて下ろすような不格好な姿をさらしたくはなかった。
「だけど・・・こんな大変な時にイルは何をしてるんだい?
こんな時こそ、渚の力になってやらなけりゃいけないのに!!」
ファラシーナはまるで自分のことのように怒る。
「渚を守らないで、どこで何してるんだい?・・・見損なったよ!」
まさか、渚の世界で女の子たちと遊んでいる、などと言えず、優司と洋一は顔を見合わせ苦笑する。
「ともかく、月姫様をお部屋に。
それから皆様のお部屋も用意しましたので、ゆっくりおくつろぎ下さい。」
「そうですね、一眠りすれば、渚も元気が戻るでしょう。」
腕の中の渚を見つめ、にっこりと微笑むと、リーはバッコスの後について、渚を運んで行った。
▼月神の娘・その27へつづく
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続・創世の竪琴【月神の娘】27・円卓会議
闇の浮遊城の一室で、渚ら5人とバッコスとで作戦会議を開く。 敵対している魔族の目的は?打開策はあるのか? 月神の娘/27・円卓会議 このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【 ...