月神の娘

続・創世の竪琴【月神の娘】11・国賓として

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イオルーシムがどこにもいない?
ニーグ村で姿を目にされた渚のうわさが尾ひれをつけて国内外に広がる。
国賓として王宮に招かれた渚は、救世の月巫女として本人の意思とは裏腹にますます神格化されていく。

月神の娘/11・国賓として

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら
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王宮への招待

-ドンドン!-

「失礼!村長殿はいらっしゃるか?」

「あ、はい!」

その翌日、遅い朝食後、イオルーシムの事を考え居間でぼんやりとしている渚に、どう声をかけようかとカーラが思案していた時、戸口を勢い良く叩く音がし、彼女ははっとして席を立つ。

「突然失礼いたす。私は隣町の治安を預かっているイーハス・ダナムと申す。
実は、こちらに救世の巫女殿がおいでだと聞き、夜を駈けてまいった次第なのですが・・・。」

渚が帰ってきたという噂はニーグ村だけでなく、あっというまに近隣の町村にまで広がっていた。
王命により、隣町の治安を任されていたイーハス・ダナムは、渚を自分の館に招く為に、急ぎ馬を駆って来たのである。

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渚はその申し出は丁寧に断ると、イオルーシムのことを聞いてみた。

「はて・・・そのような若者の事は何も耳にしておりませんので。」

予想していた答えだったが、淡い期待を抱いて聞いたことも確かであり、渚は落胆の色を隠しきれず沈む。

そんなこともあり、渚の事はあっというまに国都まで伝わり、イオルーシムのことだけが気になっていた渚の思いに反して、国王の招待で王宮へ行くことになってしまった。

「イル・・・・・」

国王からの招待では断ろうにも断れず、渚は今や救世の月神の巫女、月巫女として豪奢な馬車に揺られ、兵士が守る中、国都へと向かうことになった。

道中、神の巫女を一目見ようとする人々で埋まった賑やかな街道沿いとは反対に、渚の心は沈んでいた。

国賓として

が、意外にもそれは国都へ着くと同時に、渚の頭から消え去ってしまう。

それは、渚への待遇のせいだった。

めいっぱい緊張した国王との謁見。
人間は皆平等だというけれど、渚はやはり自分は一般人なのだと感じずにはいられなかった。

「あれが国王の貫禄っていうものよね。」

渚のために用意された貴賓室に戻り、渚はほ~っとため息をついてイスに座っていた。

その部屋でさえも、緊張してしまうくらいの広さと立派な作りである。

というものの、決してきらびやかではなく、上品で洗練された調度品、ふかふかの絨毯にイスが用意された落ち着いた部屋であるのは、おそらく巫女としての質素な生活を考慮に入れた上での配慮から、それでも控えめな部屋を用意してくれたのだと感じられた。

そして、渚は謁見の前にドレスに着替えさせられていた。
いわゆるお姫様ルックである。

手を通すどころか見たことも触ったこともないような豪華なドレスとアクセサリー。

腰をきゅっと絞めあげたコルセットがきつく、窮屈だとも感じたが、それ以上にお姫様ルックは渚を興奮させていた。

女優でもない限り、普通ウエディングドレスでしかそんなものは着られないし、たとえそれであっても本物の王女が着るような豪華で上質なものは身につけることなどできるはずがない。

鏡に映った自分がまるで別人のように思えた。

「馬子にも衣装ってこのこと?」

数名の女官の手によって着替えさせられ、鏡を見たとき渚は自分のことながらついそう思っていた。

謁見の後のしばしの休憩後、国王主催の晩餐会。そして、翌日に舞踏会。

踊れないからと辞退する渚にやさしく指導してくれたのは、当然国王の子息である王子である。

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豪華絢爛なる宮廷生活

夢みがちの女の子なら一度は夢みるあこがれの王子様と豪華絢爛なる宮廷生活が始まる。

しかも、この世界で渚は神聖なる月神の巫女。
誰もが腫れ物を扱うかのように丁重に、そして恭しく接する。

最初は、ただただ戸惑っていた渚も、2日、3日と過ぎていくうちに徐々にその自分に対する扱いにも慣れてくる。

周囲が人を育てるというのは本当で、1週間も過ぎた頃には、宮廷でのそういった生活にも慣れてきた。

と言ってもイオルーシムの事も忘れたわけではない。
最初こそ目新しい宮廷生活に興奮していたが、やはり夜ともなると他に関心事もない。
想いはイオルーシムと、そして、渚の帰りをじっと待つ闇世界の住人のことに飛ぶ。

国王の前ではあがってしまい何も言えなかった渚も、ようやく面前に出ることにも慣れてきた事と王子の助言もあり、渚はともかくイオルーシムの調査を依頼した。

どこにいるのか、そして・・・無事なのか、どんな小さな情報でも欲しかった。

「共に世界を救ったお方が行方不明とは、それは渚殿もご心配であろう。
なに、急ぎ触れをだし、国内はもとより国外にも調査を依頼致す故、お心安らかに、王宮にてごゆるりと朗報を待たれるがよかろう。」

が、快く渚の頼みを引き受けた国王の目論見は違っていた。

世界を救った月神の娘、月巫女。

渚本人の意思とは反し、国内のみでなく、今は完全に大陸内に浸透したそのカリスマ性は、民の心を掴む強力な武器となる。

潰えてしまったファダハン王国や闇王の事件で領主を失い無法地帯となった地域や自治区として成り立っている町々など、特定の国の庇護に入っていない地域が少なくない大陸内で、渚の存在は確実に領土拡大に繋がると思われていた。

事実、一目渚を見ようと国内外から旅人は絶えず、そして、国賓としての招待状を携えた各国からの使者が入れ替わり立ち替わり王宮を訪れていた。

国王のもくろみ

「ルードリッヒ。」

「はい、父上。」

「どうだ、渚殿のご様子は?」

「はい、以前と比べ気負いもなくなってこられたご様子。
ここでの暮らしもずいぶん慣れてこられたようです。」

「そうか。」

「それで、父上、イオルーシムとか申す若者の調査は?」

「ああ、それか。他ならぬ巫女殿の頼みじゃ、無視するわけにもいかぬ故、触れを出し、調査しておるが・・・・」

万が一見つかることはないだろうが、向こうから名乗りを上げてきた場合に備え、一刻も早く渚の心を掴むのだぞ、と国王は王子に目配せする。

「心得ております、父上。」
渚の想いは無視され、全く思もかけていない展開の様相を示していた。

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王子の熱いアプローチ

「渚殿。」

「王子?」

宮殿の一室、バルコニーから満天の星空を見上げ、イオルーシムに想いをはせていた渚に、王子がそのバルコニー越しにやさしく声をかける。

「あまりにも星空がきれいなので、中庭の散歩でもどうかと思ったのですが。」

「あ・・でも・・私・・・」

「渚殿は月下蝶という花をご存じですか?」

断ろうとする渚に王子はその前ににっこりと微笑む。

「月下蝶?・・あ、いえ。」

「月明かりの下でしか咲かないという珍しい花で、まるで蝶のように美しく可憐な花なのです。
今宵あたりが見頃だと庭師が言っておりました。ご覧になりませんか?」

「でも・・・」

「それとも、私では月巫女殿の散歩のお供としては役不足でしょうか?」

「あ・・そ、そんな事は・・。」

いろいろ気遣ってくれ親身になって話を聞いてくれる王子にここまで言われて断ることは失礼だと思い、渚はバルコニーの片隅にある階段を少しためらいながらも下りた。

「実は、渚殿にお見せしたくて、遙か東方の国から取り寄せたのですよ。」

王子は満足げに渚の手をそっと取ると、中庭へとエスコートしていった。

 

▼月神の娘・その12へつづく

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