月神の娘

続・創世の竪琴【月神の娘】6・月神の巫女

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闇王の居城に連れてこられたシアラ、と、彼女の中にいる渚。
己の身分も人間界も全て捨てて闇世界で闇王と暮らす決意をしたシアラ。
でも、その幸せそうな2人の姿に、自分とイルオーシムを重ね見て、疑似体験とはいえ、しばし幸福感に浸る渚だったが…。

月神の娘/6・月神の巫女

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら
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無人の居城

「ん?」
目を開けると同時にがばっと渚は身体を起こす。

「いつの間にか寝ちゃってたんだ・・・」

でも、なぜ石畳の上などで?と、そう思いながら渚は、それまでと感覚が違うことに気づき、慌てて自分を確認する。

「戻ってる!」

それは確かにシアラの身体や衣装ではなく、本当の自分の身体と来ていた服装に戻っていた渚は安堵すると共に周囲を確認する。

「こ、ここって・・・?」

周囲を見渡すと同時に、渚の顔から血の気がさーっと失せる。
足下に広がる模様。見覚えがあるそれは、確かに闇世界の浮遊城にあったあの魔法陣。

「シアラは?闇王はどこ?」
がばっと起きあがって渚はバルコニーへと出る。
が、そこには誰もいない。

-タタタタタ-

し~んと静まり返り、時が止まっているような城内を渚は走っていた。

「誰もいないなんて・・・もしかしてシアラとここへ来たあの時から時間が経ってる?」

もしかしたら現在に戻っている?そんなことを考えながら、渚は城の一番上、最後の部屋の扉を開けた。

-ギギギギギ・・・-

「きれい・・・・」

扉の真正面には女神ディーゼの真っ白な彫像があった。
そして天窓から月光がその彫像に差し込んでいる。
その美しさに思わず渚の口から感嘆の言葉がでる。

月光と女神像にひかれるようにそろそろと歩み寄っていった渚の脳裏に、それまでの事が次々と浮かんできた。

ようやく望んでいた異世界へ来たというのに、ここにはイオルーシムどころか誰もいない。
同じ世界であって異なった世界。
どこかに人間界への道があるのだろうが、浮遊城から出る方法さえわからない渚にそんなことが分かるはずはない。

「女神ディーゼ、私はどうしたらいいのですか?・・・イルは・・・イルとは会えないんですか?」

彫像の前に立ち、渚は祈るような気持ちで訊ねてみる。
が、月光がやさしく渚を照らすのみで答えはない。

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シアラの遺言

-ポト・・・-

「イル・・・せっかく来たのに・・場所が違うなんて、そんなの・・・・・」
大粒の涙が頬を伝って落ちていった。

-コロロロ・・・-

「え?」

確かに涙が落ちたのだと思った渚は、落ちた場所から石のようなものが転がったのを見て慌てて拾い上げてみる。

「これ?」

月の光を反射し、まるで真珠のように銀色に光るその玉を不思議そうにじっと見つめていた渚の耳に聞き慣れた声が聞こえた。

「やはり、あなたが月神の巫女。」

「え?・・・その声は・・・・・・シアラ?」

「渚・・」

「シアラ?!」

ふっと渚の目の前に現れたのは、渚の知っている彼女ではなく、黒衣の老女。
渚は思わず警戒して彼女を見つめる。

「闇王様が亡くなられた後、私の若さはなくなりました。」

「シアラ・・・」

「闇王様がお元気なら、私は若いまま永遠にここで暮らしていけたはずでした。
でも・・・闇王様は亡くなり、私には寿命と病んだこの世界が残されました。
そして、崩壊の前に新しい闇王、ゼノー様をこの世界へ迎えることができ、ようやく亡き闇王様の元へいけると思っていた矢先、・・・ゼノー様はあなたの手で倒されてしまった。」

「シアラ・・・・」

「いいえ、あなたを責めようとここへお呼びしたのではありません。
元はと言えば、私が・・・私の望郷の念が闇王様にあのような行動を取らせてしまったのですから。」

悲しげに微笑むシアラに、渚の警戒心は消え失せる。

「望郷の念が?」

「そう・・・・。青い空、緑の木々・・・きらめく湖面、そんなことをふと考えてしまった私の気持ちを悟った闇王様は、私の為に人間界をも手に入れようと…。」

「シアラ・・。」

「何度お止めしたか・・・でも、心配はいらない、あの方の返事はいつもそうでした。
・・・今更言っても仕方のないことなのですが。」

すっと手のひらを差し出したシアラに、渚は手にしていた自分の涙だったと思われる銀色の玉を見せ、これが欲しいのかと聞く。

「私にはもう月の光をそうして変えることができなくなってしまいました。」

「え?」

「月神ディーゼの恵みは闇世界を息づかせる為の糧。
その糧はここで私がそうして受け取り、闇王様に渡しておりました。
そして、闇王様はそのお力でこの闇世界を息づかせていました。」

「闇世界。」

「はい。ここでも人間界と同じように様々な魔族がおります。
生活習慣こそ異なりますが、皆生きているのです。ですから・・渚・・・」

シアラは渚の両手をそっと握ると真剣な瞳で彼女を見つめた。

「どうか闇世界を救ってください。」

「で、でも・・・・」

「月の恵み、月神のパワーはそうして受け取ることができるのです。
ですから、後は闇王様をお迎えさえすれば。」

「迎えればと言われても、誰でもいいわけではないんでしょ?」

「闇王となられる方は、闇を息づかせる力がなくてはなりません。
その力があって初めて月のパワーが引き出されます。」

「それってやっぱり魔族?」

思わず身震いした渚にシアラはやさしく微笑む。

「いいえ、魔族とは限りません。
ゼノー様も人間でした。種族は関係ないのです。
その力を秘めた人物なり魔物なりを探し出せば。」

「要するに誰か分からないのよね。」
ため息を付いて言った渚に、シアラは力無い笑みを見せる。

「できるのならば、あなたの愛する人が一番でしょう。」

「え?」

「ここで共に暮らすことになるのです。それが一番でしょう?」

「それが一番って・・・じゃー、私はもうここから出ることはできないの?」

「月神の恵みを受け取れる者は、闇の女主人。
闇王と共にいるのは当たり前のことだと思いますが。」

「そ、そんなの勝手すぎない?わ、私は・・・」

「渚、時間がないのです。
闇世界はこうしている間にも崩壊が広がっております。
そして・・・私にはもう時は残されておりません。」

「残されてないって?」

「ゼノー様が亡くなり、再び崩壊が進み始めました。
私はそれを少しでもくい止めるために漆黒の炎にこの身を投げ入れました。」

「え?」

「闇の炎と私の残っていた力を合わせ、少しでも崩壊の時を延ばそうと。」

「じ、じゃー、あなたは・・・」

驚いて青ざめる渚をシアラは微笑みと共に真摯な瞳で見つめ続けていた。

「そうです。私はもうこの世の者ではないのです。
ただ・・・次の闇王様か、あるいはその人物を捜しうる人、私の代わりの人物を見つけ、このことを頼もうと・・・その思いがこうして私を象っているだけなのです。」

「シアラ・・・」

「お願いです、渚。この世界も、そして住人も同じように生きているのです。
闇王様の愛したこの世界が崩壊しつくされてしまう前に、どうか新しい闇王を見つけ、共に守ってください。渚・・・お願い・・・。」

「シアラ!?待って、シアラ!」

が、叫ぶ渚を残し、シアラはすうっと霧になって消えていった。

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「で、どうすればいいのよ?探せって言われても・・・・」

渚の都合はまるっきり無視されていた。
勝手にとんでもない大役をなすりつけられ一人取り残された渚は怒りよりも呆然としていた。

「イルにその力があれば・・・」
そして、思わずそんな考えが渚の頭を過ぎった。

「イルとなら私・・・・ここでもいいかも?」

が、それは自分の世界と完全な決別を意味していた。
全てを捨てここでイオルーシムと暮らす。
全て、それは家族も友人も・・・そして向こうでの世界全部。

「ああー!もうっ!どうすればいいのっ?!」

イオルーシムには会いたい。会いたいが、もし彼にその力があったとして、全てを捨てることは・・・・現状では到底割り切ることができなかった。

「イルはゼノーのイヤリングをつけていたのよね。
・・それってやっぱり闇王となれる可能性があるっていうこと?
それともゼノーの双子の弟のリーの方が?
・・・リーもいい人だけど、でもここで一緒に暮らさなくちゃならなくなるのなら・・・私はイルが・・・・。」

が、ともかく条件である闇王としての力のある人物でなくてはならない。
それが、イオルーシムだとも、そしてリーとも限らなかった。

「もしも、探し出したら魔族だったなんて・・・」

角の生えた悪魔の姿を想像し、渚は思わずぞっとしていた。

「あ・・でも、別にその人と結ばれる必要は・・ないはずよね?」

シアラの口調だとそうだったが、それも可能なはずだった。
協力者という名目という事もできるはず。
が、相手が納得してくれればのことでもあった。

「そんなことより、ここから出る方法が分からなくちゃ捜すこともできないじゃない?」

ガランとした城内で渚は一人途方に暮れていた。

-ぐきゅるるる・・・・-

「お腹もすいてきたんだけど、ここって何もないの~?」

渚は女神の彫像のある部屋に戻ってくると、大きくため息をついてその前に座り込んだ。

 

▼月神の娘・その7へつづく

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