月神の娘

続・創世の竪琴【月神の娘】1・忘れられない異世界の恋人

更新日:

実在していた自分が作っていたゲーム「創世の竪琴」の世界に引き込まれ、崩壊に向かいつつあった世界を救って、元の世界に戻ってきた女子高生・渚。
ゲームの世界で出会った青年を忘れることなく月日は過ぎ、渚は大学生になっていた。

月神の娘/その1・忘れられない異世界の恋人

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら
創世の竪琴のあらすじと月神の娘の前書きは、ここをクリック

おつきあいでパソコンの下見

「渚!」
大学からの帰り、駅のホームで電車を待っていた桂木渚の肩をぽん!と叩く手があった。

振り向いた渚の目に写ったのは、にこやかな微笑みと共に後ろに立っていたのは、彼女の親友である結城千恵美。

「ちーちゃん!」

「休みなのに学校?」

「うん、ちょっとね。」

「私はバイトの帰り。今日は早番だったから。渚は?」

「あ、えっと~・・・・」
ホームにある出口への階段を見た渚の視線にそって千恵美もそっちを見る。

と、ちょうど階段を駆け上がってくる一人の男の姿が目に入った。

「なんだ・・・デート?」

「そ、そんなんじゃないわよ!・・ただパソコン買うから一緒に見てほしいって言われただけで・・。」

焦って言い訳する渚に、千恵美は、からかうような視線を投げる。

駆け上がってくるその男の名前は山崎洋一。
渚も千恵美も高校時代同じ部活に席をおき、2年の時は一応部長をしていた人物である。

お互い大学3年になった今、千恵美とは学校が違ってしまったが、洋一と渚は偶然(?)同じ大学であり、時々洋一がなんだかんだと用事を作って誘っていた。

「ごめん!待った?」
はー、はーと荒い息をしつつ、洋一は2人の前に駆け寄ると笑顔を見せる。

「電車1本乗り損ねたわ。」

「ご、ごめん。ちょっと香ちゃんに雑用言いつけられちゃって。
一応急いで片づけてきたんだけど。」

頭をかいてあやまる洋一に、仕方ないというようにため息をつきながら、渚は線路の方へ向きを変える。

香ちゃんとは・・・洋一が選考している学部の助教授である。
断っておくが、男である。
いつもにこにこわらって人当たりがよく、少し童顔で背の低い彼は、みんなからそう呼ばれている。

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「・・っと・・・・・」

ちょうど渚の後ろに2人は立っていた。
その洋一の脇腹を、千恵美がつん!とつつく。

「なんだよ?」
洋一は千恵美に小声で聞いた。

「『なんだよ?』じゃないでしょ?まだぼやぼやしてんの?」

「ぼやぼやって?」

「パソコン見に行くってなによ?
もっと普通に誘いなさいよ!普通に!」

「そんなこと言っても、桂木がだな・・・・」

「何?」

「あ、ううん、・・・ど、どんなパソコン買うつもりなのかなって聞いたの。」

「ふ~~ん。」
2人の会話に振り返った渚に焦りながら千恵美が答える。

「そうでも言わなきゃ話にも乗ってくれないんだぞ?」
再び渚が前を向くと、言い訳の続きをする洋一を千恵美は睨む。

「・・・まったく・・・・・気が小さいんだから・・・どうせまだ告ってないんでしょ?」

「桂木の態度見てて、そんな勇気でると思うか?」

「いいから!さっさと告ってなるようになっちゃえば?」

「『なるように』って・・んな無責任な・・・・そうだ!結城なら聞けるだろ?」
その言葉に、千恵美は思いっきり軽蔑の眼差しを洋一に向ける。

「男らしくないわね!だいたい何年片思いしてるのよ?!」
その言葉に洋一はぎくっとする。

「やっぱ高校の部活の時さんざんからかったのが悪かったんだろか?」

「当たり前でしょ?渚はにぶいんだし!」

「あ~あ・・オレも青かったんだよな~~・・・」

「ば~~か!後悔するにはまだ早いわよ!
パソコンやめてデートコースにしちゃえば?
まずは、おしゃれなレストランとかカフェとか?
今からでも遅くはないぞ?!」

「そんなこと言ったって、今日だってパソコン買うからって言って、なんとか引っぱり出したんだぞ?
あいつも買いたいって言ってたのを聞いてたからさ。
参考になるから見にいかないかって、ほとんど強引に・・・」

「電車来たわよ?」

「あ・・・・」

2人で話が盛り上がって(?)いたところに、またしても急に振り返った渚に2人は必要性のない焦りを感じる。

-ゴトンゴトン・・-
ホームにゆっくりと電車が入ってくる。

「ちーちゃんが一緒に行くんなら、私、帰っていい?」

「え?」

「は?」

「私よりもちーちゃんの方が他の機種には詳しいし。
私は、ほら、ゲームしかしてないし、ちーちゃんみたいにいろいろ調べててわかってるわけじゃないから。
見に行ってもわけわかんないし。」

「そ、そうじゃなくて・・・」

「あ、あのね、渚・・」

「あ!ちょうど電車来てる。・・じゃ、私、帰るから、またね。」

-ジリリリリ-

同じホームの反対側、扉が閉まりかけていたその電車へ飛び乗って、渚は行ってしまった。

「あ・・・・・・」

「ご、ごめん・・・私が内緒話みたいに話してたのが悪かった・・のよね?」

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-ジリリリリー

そんなことをしている間に、乗るつもりだった電車も発車してしまった。

渚のその行動は2人が後ろでぼそぼそ話していたことに対してでも、そんな2人にやきもちを妬いたというわけでもなかった。

朝の電車の中で洋一と会って、ほとんど強引にパソコンの下見につきあうことになってしまい、どちらかというとホームで千恵美に会えたのはラッキーだと渚は思っていた。

そして、2人でパソコンの話で盛り上がっているようならちょうどいいと渚は判断した。
頼み事をされると断りきれない渚には願ってもない口実だった。

パソコンが起動しない?

「ただいま~・・・・」

家に着き、自分の部屋に入る早々、愛用のデスクトップパソコンにスイッチを入れる。
それは高校生の時から愛用しているパソコン。
それまで居間にあったのを、大学に受かってからレポート作成などがあるからと言って自室に置くようになっていた。

そのモニタが明るくなるのを見つつ、渚はごろんとその横にあるベッドに転がる。

渚はあれからまだ忘れることも、そして、割り切る事もできずにいた。

そう、異世界であった夢のような出来事、そして、そこで会って恋をした一人の青年の事。

それでもあれから約3年が過ぎ、一時よりは落ち着いてきたことも確かだった。
ゲームの世界での出来事は、遠くなつかしい思い出のような感覚も受ける。

それでもそこでの事実は時として鮮やかに蘇ってくる。
そして、女々しいぞ、と自分をしかってみる渚だが、それでもどうしようもなかった。

「私って・・・なんでこう割り切りが悪いのかな?」

千恵美から何度いい加減に勇者様から卒業しろ!と言われたことか。
異世界での話をしても、頭から夢だと千恵美からは、あれからも散々からかわれていた。

「現実に目を向けろって言われてもねー・・・
私だって、自分がこんなにうじうじといつまでも引きずるなんて思わなかったわよ。」

パソコンの画面には、高校2年の時部活で作ったゲームのマップが表示されていた。
異世界へ行くきっかけになったゲーム。
いや、本当にそれがきっかけになったのかもどうかわらかなかったが、ともかく、その世界は実在し、今渚が目の前にしているパソコンの画面から出入りしたことも確かだった・・・・・と渚は思う。

「一度あったんだから、またあってもいいのに。」

時が過ぎていくにつれ、本当にあったことのはずなのに、自分でもそれが夢だったのでは、という感覚に時々襲われてもいた。

「どうなったのかな、世界は?・・・ララは元気かしら?・・・イルは…おじいさんの家にいるのかな?」

はじめてイルと出会った山の中の一軒家を思い出しながら、つん!と画面を指で弾く。

「ちーちゃんなんか、あの時から何人彼氏替えたかしら?」

いつまでも一人の、しかもこの世界の人でない人を想っていても仕方ない事だから、いい人を見つけて新しい恋でもすれば、と自分でも思ったが、そんなに簡単に思い通りにいかないのが、人の心である。

否定すればするほど、しまい込もうとすればするほど、渚の心の中に恋した異世界の人、イオルーシムはいるのだと再認識させられる。

「最近とくに部長がうるさくつきまとうし・・・・そんな気分じゃないのよねー・・・。」

洋一の事は高校時代からのくせで、未だに部長と呼んでいた。

今は7月の半ば、大学はすでに夏休みだが、小中高が夏休みになるその時期が近づいてくると渚は沈みがちになる。

それは、やはり異世界でのこと…いや、イルのことをどうしても思い出してしまうからだった。
つい真夜中までパソコンの前に居続けてしまっているのだが、別にゲームをしているわけでも、レポートを書いているわけでもない。

そして、そついにその心配はその日2回目の起動時に突然起こった。

「ああ~~っ!き、起動しないっ?!」

なんとパソコンが、うんともすんとも言わない。

「うそでしょぉ~?!昨日まで・・ううん、帰って来たときは立ち上がったじゃないっ?!」

青くなって渚はハードディスクランプが点滅していないのを確認して、スイッチを入れ直す。が、数回やっても画面は真っ暗のまま。

ひょっとしたら、と電源プラグまでも確認したが、きちんと入っている。

「もう・・だめ?」

システムディスクを、そして他のゲームも試してみる。・・・しかし、立ち上がる気配はない。

「そ、そんな・・・もう会えないじゃないっ?!」

(アレスにセリオスにアッシュにさおりちゃんにニーナに・・その他大勢に・・もう会えないじゃないっ!)

ゲームの主人公の名前を叫んで、ぐわーーん!と脳天にハンマー状態の渚は嘆く。

彼女は『イルに』とは思わなかった。
無意識にそう思うことを避けていたということが本音だろう。
思ってしまえばそれが本当になってしまうような気がし、心の奥でそれにベールをかけていた。

数週間前からどうも起動時がおかしいとは感じていたが、まだ大丈夫だろうと思っていた、いや、思いたかった渚は真っ青になる。

「いけないっ!レポートの書きかけファイル、まだ印刷してない!」

万事休す・・・・。

「お願いだから立ち上がって!1回だけでいいから、そうしたらずっとつけっぱなしにしておくから。」

それも無理な事だと思えたが、今の渚はそう願いながら、あれこれと試してみるしかなかった。

そして、その夜遅く。
悪戦苦闘していた渚はパソコンの前で寝てしまっていた。

その暗闇の中、すっと電源ランプがつく。
そして、入れっぱなしのゲームのDVDを読み込み始めた。創世の竪琴のゲームの。

-ヴン!-
パソコンの画面が明るくなってくる。

「・・・ん?」

そのまぶしさで渚が顔をあげたその瞬間、画面からまばゆいばかりの光が出、渚は
その光に包まれたことを感じると同時に意識が遠くなっていく感覚を覚える。

(もしかしたら……行けるの?)
遠くなっていく感覚の中、小さく呟く渚の胸は期待で大きく鼓動していた。

 

▼月神の娘・その2へつづく

続・創世の竪琴【月神の娘】2・再びゲームの世界へ

もう一度行きたいと願っていたゲームの世界。 何度パソコンの前でそれを願ったか。 それがついに願う?真夜中、パソコンの前で覚えのある感覚に渚の心はときめく。 月神の娘/その2・再びゲーム「創世の竪琴」の ...

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