創世の竪琴

創世の竪琴/その8・魔法と魔物・初体験

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-ギ、ギ、ギギギィィィ・・・・・-

渾身の力を振り絞って扉を押すと、鈍い音をたてながらゆっくりと開いていった。
(前の話。創世の竪琴その7はここをクリック

2人は顔を見合わせると急いで中に飛び込み再び閉める。
グナルーシの言ったとおり、まだ魔物はその辺には見当たらない。

しかし、いつ襲ってくるのかは、全く予想できない。油断はできない。

2人はドアの隙間から漏れてくるあの杖の光を感じ、再び封印が成された事を確認すると、ゆっくりと奥へと続く洞窟を進み始めた。

「イル、渚・・・後は・・・頼んだぞ。・・女神ディーゼ・・・2人の・・・加護を。世界をお救い・・・下・・・さ・・い。」

グナルーシの部屋、魔方陣の中央に座し、最後の力を振り絞り封印を完成させた彼は、そう呟くと静かに息を引き取る。

そんなグナルーシの状況をイルも渚も知るよしもなく、暗闇というだけでない気味の悪い空気が満ちている内部へと足を踏み入れた。

奥から吹いてくる冷風が2人の頬をなでるように通り過ぎる。
奥の方では壁から地下水でもしみ出しているのだろうか、水の滴る音も微かに聞こえてくる。

さすがの渚もピクニック気分とはいかなくなってきていた。

何かが出そうな気配・・そう、今にもそこかしこから襲ってきそうな気配を感じる。

周りに気を配りながら2人は一歩一歩進んでいく。

「渚、短剣、忘れてきてはいないだろうな?」

暫く進んだところで、イルが何かを感じてその静寂を破るように話しかけた。

「あ、当たり前でしょ?袋の中にちゃんと入ってるわよ。」

「出しておいた方がいいようだ。なるべく俺だけでなんとかするつもりだけど、もし襲ってきたら、それで身を守るんだぞ。いいな。」

「え・・・ええ。」

前方からの何かの気配を感じているのはイルだけではなかった。

渚は緊張しながら急いで袋の中から短剣を取り出す。

暗闇の中にうごめいていたのはどうやらゾンビ。
鼻を突く死臭と彼らの言葉にならない低い叫び。

短剣を握る手に自然と力が増す渚。

(いよいよモンスターとの戦闘だわ。無事やっつけれますように!でも臭いわねぇ!夢もここまでリアルだとちょっといきすぎって感じね?)

「渚、俺の後ろに下がってろ!」

「えっ、でも・・・」

「いいから、早く!」

私も戦いたいのに、と思いながらもイルの気迫に押され、渚はしぶしぶ彼の後ろに身を寄せる。

(はーあ、どうせならこんな子供じゃなくって、もっと背が高くてかっこいい勇者様だったらよかったのにぃ。いくら自分の夢でもなかなか全部が思いどおりにはいかないものね。)

自分勝手な事を思いながら、自分の肩くらいしかないイルの頭越しに前方を見ていた。

(冒険を続けるうちに勇者様とのロマンが芽生えるっていうのがこういう冒険物の魅力なんだけれど・・・小生意気なガキじゃ・・・ふう・・)

イルは渚がそんな事を考えているとは思うはずもなく、右手を上げ、精神を集中し始めていた。

イルの手の平に小さな赤い炎のような物が現れ、それは渦を巻きながら徐々に大きな球になっていく。

目の前に現れたゾンビのおぞましい姿に寒けを覚えながらも渚は、今放たれるであろう魔法、夢とは言えこの目で見れる魔法に、胸が踊っていた。

「神龍ファイラとの盟約に基づき、我、全てを焼きつくさん・・・『赤龍焦炎』」

イルの手の平の紅球は放たれたと同時に真紅の炎龍となって前方のゾンビに襲いかかっていく。

「うぎゃああああああ!」

ゾンビの集団は、辺りにこだまする悲鳴を残して跡形もなく焼き尽くされていった。

「す、すごぉい!」

自分も戦わなくてはいけない、そう緊張していた渚はあっと言う間に燃やし尽くしたその威力に目を見張っていた。

「まっな。このくらい朝飯前さ。いくぞ。」

「は、はい。」
生意気だけどガキにしてはすごい!渚は素直に答えていた。

「ねぇ、イル、・・・」

「何だ?」

魔法を目の当たりにして、未だ興奮冷めやらずという感じで渚がイルに言う。

「さっきの・・私にはできないかしら?」

「あれは、炎龍『ファイラ』の力を借りる術なんだ。盟約を結んでない者には無理だな。
まぁ、次から次へとモンスターが襲って来ないかぎり俺だけで防げるだろうから、渚は大船に乗ったつもりで安心してついてきな。」

(この偉そうな言い方さえしなかったらいいのに・・・)

「でも・・・もし出来るんなら、私だって力になりたいわ。・・ここはモンスターの住処なんでしょ?」

「そうだな、もしもの場合・・・だな。備えあれば憂い無しってとこだな。よし、それじゃ・・・・」

歩きながらイルは袋の底から革でできた巾着を取り出し、渚に渡した。

「何、これ?」

渚は巾着の口を縛っている紐を解き、中を覗いた。中には何やらビー玉のようなものがたさん入っている。

「色んな色をした玉がいっぱいあるわ。これが?」

透明な赤い玉を1つ取り出してみる。渚にはどう考えてもビー玉に思えた。

「玉1つ1つに魔法が込められているんだ。精神力を使い切った時とか、魔法を使えない者の為のアイテムなんだけどな。
戦闘の必要のない時、魔法使いたちが魔法をその玉に封じ込めておくんだ。いざって時の為にな。」

「ふ~ん・・・・綺麗なビー玉にしか見えないけれど。」

「発動するかどうかは使う人の精神力にもよるんだ。だから、魔法使いなんかの見習いの修行にも使われる事もあるんだけどな。玉がその人の精神力に反応しなくちゃ、そこら辺の石ころと一緒なんだ。」

「ふ~ん・・・・で、この赤い玉は『炎』の魔法ってわけ?」

「そう。心の中で炎をイメージして相手に投げつけるんだ。呪文を唱えるように叫びながらやると、その気持ちが増幅されて効力が増すんだ。」

「な~るほど・・・・で、その呪文は?」

「何でもいいよ、使う人の勝手だ。」

「ふ~ん・・・・私一度やってみたかったんだ、『ファイアーッ!』って。」

「数限りがあるんだからな。無駄使いするなよ!」
玉をつまみ上げ、今にもやりそうな渚にイルはすかさず釘をさした。

「はい、はい。」
渚はぺろっと舌を出すと、仕方なくそっとそれを袋にしまい、ジーンズのベルトにしっかりとくくりつけた。

予想ではひっきりなしにモンスターが襲ってくるのかと思われたが、洞窟はし~んと静まり返り、2人の話し声と足音だけが響きわたっている。

早く玉を使ってみたい渚はいらついてもきていた。

-ペチョッ-

首筋に何か冷たいものがかかったような気がして渚は手をあててみた。

「な、何これぇ?」

ひんやりした青いゼリー状の物が首から手へと付着している。

渚のその声でイルが振り返った時と同時だった、天井からその本体と思われる大きなゼリーが落ちてきて、すっぽり渚を覆うとイルから大きく後退した。

「な、渚!」

「イ、イル・・・く、苦しい・・・・。」

ゼリーと思われた物の正体は、巨大スライムだった。すっぽりと覆われた渚は、呼吸ができず息苦しい。視界も徐々に狭まってきる。徐々に自分の意識が遠のいていくのを渚は感じていた。

「渚ぁっ!」

天井から、次々と新たなスライムが降ってくる。イルはそれを避けながら呪文を唱えて攻撃しているのだが、渚の方までなかなか近づけれない。

あまりにも数が多すぎる。

その上、渚を飲み込んだスライムの上にもどんどん他のスライムが落ちてきて一体化している。
イルの魔法も表面のスライムを消滅させているだけできりがない!

「渚っ、玉だ!玉を使うんだ!!」

「ぐっ・・・ごほっ・・・そんなこと・・・言っても・・・・」

渚は息苦しさの中でそれでもなんとか袋から玉を取り出した。

(こ、声がでない・・・玉よ、お願い炎の玉よ・・・スライムをやっつけて!・・・ごほっ、ごほっ・・・・『ファイア-』)

玉はほんのりと赤くなったようにも思えたが、変化はなかった。

「駄目だ、渚、そんなんじゃ!もっと強く、もっと強くイメージしなきゃ!」

なんとかして渚のそばにこようと、イルをも飲み込もうとするスライムの攻撃避けながら魔法で攻撃しつつ、必死の思いで叫ぶイル。

(そ、そんな事言っても・・・・苦しくて・・・・もう手も足も・・・動かない・・)

手に取った玉も落とし、渚は力無くそこへ崩れるように倒れる。

「な、渚ぁっ!」

暗闇の中、渚はイルの悲鳴のような叫び声を遠くに聞いていた。

 

▼その9につづく…

創世の竪琴/その9・ブルースライムのララ

(そ、そんな事言っても・・・・苦しくて・・・・もう手も足も・・・動かない・・) 手に取った玉も落とし、渚は力無くそこへ崩れるように倒れる。 「な、渚ぁっ!」 暗闇の中、渚はイルの悲鳴のような叫び声を遠 ...

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