創世の竪琴

創世の竪琴/その3・夢の世界を冒険よ

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-ドン!ドン!ドン!-

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「こんちはあ!」

「その声はギームだな?驚かすなって!戸は開いてるよ。」

「こんちは、グナルーシ老。おっす、イル。なんだよ、誰も脅かしてねーぜ?せっかくいい物持ってきてやったのに。なんかあったのか?」

勢いよくドアを開けて入って来たのは、背の高いがっしりとした体格の真っ黒に日に焼けた大男。
髪は短く刈り上げたイルと同じ赤毛、紺のバンダナを巻いている。

男は遠慮なく家の中に足を踏み入れると、にこにこして持っていた袋から何やら包みを取り出しテーブルに置いた。

「ほい、干し肉だ。町まで行って来たんだ。・・・・あ、あれ?この人は?」
渚と視線が合うと、目を丸めるも、その態度がどことなくわざとらしい。

「わざとらしいゾ、ギーム。渚が目当てで来たんだろ?ったく!」

「へ?まさか・・・・お前んとこに女がいるなんて・・・」

「『知らなかった。』って言うのか?でなきゃ、わざわざ干し肉なんか持ってきてくれるわけないだろ?町まで行かなきゃ手に入らない物をさ!」

シセーラ公国はここ、タスロー大陸の中でも辺境とされる高山地帯にあった。

その中でもこの辺りは一段と山奥に位置し、隣村まで昼夜歩いて三日、一番近い町までは一週間といった片田舎だ。なので、誰も滅多なことでは町までは行かない。

人々は短い夏の間に収穫した穀物と牛や羊の放牧、それに山での猟等で生計をたてていた。

「はははっ、まぁまぁ、いいじゃないか、イル。お前と俺の仲なんだし。おっ、旨そうな匂い、俺、町から帰って来てついでにここに来たんで、腹がぺこぺこなんだ。」

「干し肉の礼と言ってはなんじゃが、どうじゃね、ギールムも一緒に?」

「さすが、老。話が分かる。じゃ、遠慮なくいただくとするか。」

どうやら頻繁に出入りしているらしく、彼は勝手にお碗を出すとスープをなみなみとよそってきた。

「手ぐらい洗えよな。」イルがどことなく睨んだような表情で、不満げたっぷりに言う。

「へいへい、洗って来ますよ。」
ギームはお義理程度に洗うとすぐテーブルに着く。

「えーと・・渚って言うのか、あんた。俺、ギールム。みんなはギームって呼んでるけどな。」

「よろしくね、ギーム。」

「よろしく、なんてしなくていいんだって、渚。」
イルが口を尖らせてぶっきらぼうに吐く。

「え?」
意外なイルに渚は困惑する。
(だって普通そうでしょ?夢でも、挨拶は礼儀正しくが基本よね?)

「言っておくけど、ギーム、渚は俺が見つけた。俺のもんだ!手を出すな!」

「はあ?」
イルの言葉に、何でいきなりこういう展開になるのか全然分からず、思わず渚は声を上げる。
(確かに助けられたかもしれないけど『俺のもん』って?だいたいこんな子供にそんな事を言われる覚えはないんだから!)

「例え、ギームでも許さんからな!」

「分かった、分かった、そう目をつり上げるなって!」
ギームは不機嫌なイルをからかって楽しんでいるかのようにも見えた。

そして、視線をイルから渚に向けると、まるで値踏みでもするようにじろじろ見る。
「ふーん・・・顔は十人並みだが、結構ボインだし、尻も・・でかそうだ。まぁまぁだな。」

「し、失礼ねっ!何よ、その言い方?」

真っ赤になった渚は食べかけのパンを置くと立ち上がりテーブルをばん!と叩く。

「おうおう、威勢がいいな。これなら丈夫そうだから長持ちするだろうな。いい拾いもんしたな、イル。」

「な・・・何?その言い方?『長持ちする』『いい拾いもん』ですって?」
渚の顔は怒りで一段と赤くなった。今にも食いつきそうな感じでギームを睨む。

「とと、なかなかのじゃじゃ馬みたいだな、こいつ。手こずるゾ、イル。まっ、手に負えんかったらいつでも俺に回しな、もらってやるぜ。気の強い女は俺の好みなんだ。」

「そんな気は毛頭ないね!」
イルはギームの顔も見ずに、一言そう言っただけで、黙々と食べ続けている。

勝手に自分がモノ扱いされてることに渚の怒りは頂点に達していたが、イルたちの手前ぐっと爆発するのをぐっと堪える。

「あ、あのねぇ・・・・・人をまるで犬か猫みたいに・・・」

「ん?だってそうだろ?拾われた事にゃ変わりねーだろ?昔っから決まってるんだぜ、拾ったにしろ、さらったにしろ、手に入れた女はその男の所有物なんだって。物に文句を言う権利なんてあるわけないだろ?貴族様か金持ちの娘ってんなら、また話は別だがな。それ以外の女なんてもんは、家事とガキを作る為だけのもんだ。なっ、イル。」

「何よ、その言い方?女を馬鹿にするのも程があるわっ!」
我慢の限界、ぎゅっと握りしめた渚の両の拳がぶるぶる震えていた。

「こんなに馬鹿にされた事なんて生まれて初めてよ!?」

「怖ー。また来るわ。ごっそさん。」
大げさに恐そうな態度を取ると、ギームは出ていったが、渚の怒りはおさまりきらず、立ったままギームの出ていったドアをじっと睨んでいた。

「あれでも悪気はないんですじゃ、そう気を悪くせんでくだされ。」

「悪気はないって・・・・あれ以上の悪口はないと思うんですけど。」
グナルーシにそう言われて渚はゆっくりと腰を下ろす。

「俺は、そんなふうには思ってないからな。」
1人黙々と食べ続けながらイルが言った。

「それじゃ、どう思ってるの?さっき『俺のもん』って言ったでしょ?明らかにあの人と一緒で『物』扱いしてるじゃない!」

「渚。」
イルは食べるのを止めて渚の方を見る。

「何?」
「お前、女を馬鹿にされて怒ってるけど、お前だって俺のことを子供だと思って馬鹿にしてるんじゃないか?」

(ぎ、ぎくっ!)

「それって同じ差別だぞ!」

「・・・・ご、ごめんなさい。」

「やっぱり、ガキだと思ってたな?!」
ガタっと音をたてて立ち上がると、イルはきっと渚を睨んだ。

「ご、ごめんって謝ってるでしょ?」
その勢いで、てっきり一発拳でも飛んで来るかなと思ってしまった渚だったが、イルはスープのお代わりをよそいに行っただけ。

「ふー。」
ほっとして渚は再びパンを食べ始めた。
そして少し落ちつくと気づいた、話題を巧みに変えられた事に。

「ちょっと待ってっ!上手い具合に話を切り換えないで!何で一方的に私ばっか謝らなくっちゃならないわけ?そ、それに、あなたに『お前』呼ばわりされる覚えはないわ!い、いくら助けてもらったって言っても・・・。」

「まぁそんなに最初からぷんぷん怒らなくても。ああでも言っておかないと狙われるんだぞ。」

「ね、狙われるって?」

「この辺りの男どもはみんな女に飢えてるからな。」

「え?」

「さっきもおじいがちょっと言っただろ?モンスターの生贄に女の子が召喚されるって。」

「え、ええ・・」

「奴ら、最初の頃は村や町を襲っては娘をさらっていったんだけど、隠れたりしてだんだん見つからなくなったもんだから、ここ半年程前から『召喚』なんて事を始めやがったんだ。」

イルからグナルーシに視線を移すと、老は、小さく頷いてイルの言葉を肯定する。

「それでなくても只でさえ娘はいなくなってしまってるから、年頃の男はやっきになってるってわけさ。女とみるとさらったりするようになって、治安がすっかり悪くなってしまったんだ。

まぁ、他人の女に手を出した奴には最高刑が処せられるようになってからはなんとかそういう類の事件も減るには減ったんだけど、それでも完全な歯止めにはならないんだ。
だから、誰の物って決まってない女なんか絶好の獲物ってわけさ。自分の物にするにしろ、売るにしろな。」

「売、売る?」

「ああ、いい金になるんだぜ。」
意地悪く見つめているイルに渚の心に一抹の不安が過ぎる。

「ま、まさか・・・・」

「はははっ、冗談だって。俺はそんなことしないよ!」

「本当かしら・・・・・?」
渚は疑いの眼差しでじっとイルを見つめる。

「おいおい、本気にするなって。おじい、何とか言ってくれよ!」

「ふぉっふぉっふぉっ!身から出た錆じゃ。」

「お、俺がそんな事するように見えるか?」
イルは助け船が出ないと判断すると少し焦り始めた。

「そうね、それもそうね。」
くりくりした大きな茶色の目と視線を合わせれば、まだ人生経験が浅い渚でも、そんなことをする少年だとは思えなかった。

とはいえ、そのちょっと大人ぶった生意気な口の利き方は、気に入らなかいが。

「ちぇっ、ガキに見えて良かったのか悪かったのか?」

「えっ?何か言った?」

「べ・・・別に・・ところで、お前いくつなんだ?」

「17よ。」

「17?ふ、ふーん・・・・。」

「イルは?何歳なの?」

「いくつに見える?・・・・どうせ10かそこらにしか見えないってんだろ?」
物凄い目つきで睨んでいるイルの気迫に押され、渚はその先が言えなかった。

「チビで童顔だからなっ!」

「べ、別にそんな事言ってないでしょう?」

「とにかく、『お前は俺の物』って事にしておいた方が安全なんだよ。この村の男達は、法を侵すような奴はいないからな。」

「でも・・『物』って・・・やっぱり聞こえが悪いなぁ・・・・。」

「いいんだよ、俺は。あんたがどうなってもな。俺だってどうせなら、もっとこう、やさしそうで、言うことを聞いてくれる可愛い子の方が・・・。」

「私だってどうせなら、歳相応のカッコいい男の人の方が・・・・。」
頭にきた2人は、今にもかみつきそうな顔で睨み合っていた。

「2人ともそのくらいにしときなされ。」
雲行きが怪しくなってきた2人の会話にグナル-シが口を挟んだ。

「とにかくじゃ、そんなわけでの、この辺じゃ娘はもういないと言っても過言じゃないんじゃ。年頃の男達は皆やっきになっておるんじゃ。
じゃが、ここの村の衆なら他人の物までは手は出さんと思うから、一応、イルのって事にしておけば、まず大丈夫じゃろうて。」

「もうっ!おじいさんまで『物』扱いするわけ?」
睨む相手をイルからグナルーシに代え、思わず渚は大声を出してしまっていた。

「ふぉっふぉっふぉっ!言葉の綾じゃよ。じゃが、年寄りの儂とよりいいじゃろ?」
(ぐっ、確かにまだイルの方がいいかもしれない・・それに子供なら危険もないし・・・。)

(これ以上言うのは止めよう、言ってみても始まらないし)
それ以上言及することを止めた渚に一段落したことを確信すると、グナルーシは高笑いをすると立ち上がり、自室へ入って行く。

「もっと食べるか?」
イルも意地になったことを反省したのか、気まずくそっぽを向いていた渚に普通の口調で話しかけた。

「ううん、もうお腹一杯!あっ、私、片づけるわ。」
考えると余計腹が立つし、それに年下のイルの手前、いつまでも怒っているのも大人げないと思い、渚は食器を片づけようとするイルを止めて後片付けを始める。

(これくらいしなくちゃ、居候なんだもん、・・・・でもこの夢って結構楽しそう。この夢がいつまでも続くといいな。)
あれこれ考え、わくわくしながら渚は手を動かしていた。

「うーーん、やっぱりいいな、女の子がそうやってるのを見るのは。」
イルが食後の紅茶を飲みながら、独り言のように言った。

「イル、お母さんは?」
洗い物を終え、渚は、イルのいるテーブルに近づきながら聞いてみる。

「知らん。俺は小さい頃、おじいに拾われたんだ。」

「ご、ごめん、余計なこと聞いちゃって。」

「別にどおってことないよ!」

-ガチャ!-

イルが乱暴にカップを置いたことで、余計気まずい雰囲気になってしまい、どうしようかと渚が困っている所にタイミング良くグナルーシが戻って来る。
老人の手にはメモのような紙と小さな布袋があった。

「ギールムが来たって事は、もう村中の話題になってるんじゃろう。引きこもっているより顔見せに行って来た方がいいかもしれん。まだ食料はあるんじゃが、一緒に村まで行って調達してきてくれないか、イル?」

「そうだな、おじい。男どもが順番に覗きにくるよりはいいだろうな。」

イルはグナルーシからコインの入った布袋とメモを受け取ると、壁に書けてあった袋に入れそれを肩にかけた。

「あと、この膏薬をシャクロッシュばあさんに届けてくれ。それと、村長にこの手紙を渡して来ておくれ。」

グナルーシは膏薬の入った紙袋と手紙をイルに渡した。

「オッケー!」

「渚、この編み上げサンダルに替えろ。山道はこの方が歩きやすいからな。」
ぽんっと投げてよこしたサンダルに慌てて履き替え、渚は先に外に出ていったイルの後を追る。

「行ってきます、おじーさん。」

「ああ、気をつけてな。」
優しげなグナルーシの笑顔の見送られ、渚はわくわくしながら、イルの後を追った。

▼その4につづきます。

創世の竪琴/その4・魔物が出る春の小道

「行ってきます、おじーさん。」 渚はわくわくしながら、イルの後を追った。 (このシーンにつづく創世の竪琴その3はここをクリック) 「わあー、きれい!」 家は山頂近くの森の中に位置していた。そこから続く ...

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