「ところで、フール?」
「なんでございましょう、ご主人さま」
「人間が魔の瘴気に触れたらひとたまりもなかったんじゃなかったのか?」
「ああ、それでございますか、大丈夫でございます、このわたくしめがついておりますれば、わたくしの保護パワーが働いておりまする。」
大げさにお辞儀をしてから、さも得意げにふんぞり返るフールを見て、ぷっと小さく吹き出してから長谷は、そんなフールをよいしょした(?)
「へー、すごいな、フール。さすがプチの案内人だぜ。」
「それほどでも……ありますが」
オレの肩の上でますますふんぞり返るフールを、オレはぴん!と指ではじいてやった。…軽くだが。
「長谷、あんま褒めると調子に乗るからよせって!」
そんなオレ達の前方に、またしても不可思議な光景が見えてきた。
Contents
魔界の中の本の世界
「なんだ、あれ?あれも本か?部屋で見たやつと同じような感じだな?」
「それとも本の形をした島?」
周囲は水に阻まれて、船か何かがないと行けそうもない。
「あそこへ行くのか?それとも、あれは眺め見るだけで、別の所へいけばいいのか?」
フールは少し悲しげに首を振って答えた。
「いいえ、あの湖に浮かぶ島のように見えるのが、我々プチ・ヒエロゾイコンの仲間の住む世界、魔界の中のプチの世界なのでございます」
「え?あそこに限定?魔界は自由に動けるんじゃないのか?」
「はい、我々はプチ・ヒエロゾイコンに封じられました。故に、魔界においても本の中に限定されるのでございます。」
「………なんか、それって窮屈じゃねえ?」
「いえ、ご主人様が呼びだしてくだされば、己自身のみでは行けない世界へも行けますし、”狭い本”と目には写りますが、どうして、足を踏み入れてみると広ぉございますよ」
ふ~~ん、そんなものなのかと本の島を見ながら夕士と長谷は感心する。
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「で、どうやって行けばいいんだ?あそこへ行かなくちゃいけないんだろ?船とか飛行船とか?」
「普通にご主人さまたちをご招待申しあげたとするのならば、風の精霊ジルフェの力で湖など、すんなり越えることができるのですが…」
「ダメ…なのか?」
「はい、今はわたしどもの方が、ご主人様の助けを待っている状態ですので…」
「いったい、どうなってるんだ?みんなは?」
「封印されているのでございます。」
「封印?」
「はい。あの中で。本来ならば自由に動けるあの島の中で、動けぬよう封印されてしまっているのでございます。」
「なるほど、で、オレ達にその封印を解いてほしいというわけだな?」
「長谷、オレには面倒事には巻き込まれるなとか言いつつ、なんだか楽しそうだな?」
わくわく感たっぷりに聞えてきた長谷に、思わず夕士はくいつく。
「まーまー、いいじゃないか。夕士一人じゃ心もとないが、オレがいるしな?」
にやりと自信たっぷりに笑みを見せる長谷。
「へーへー、さいですか、どうもどうも。で、結局どうやって行くんだ?」
「お手数ですが、イカダ…でも作っていただいて・・・」
小枝と葦でイカダ作り
「イカダぁ?」
てっきり魔法でいけるとばかり思っていた夕士は、気が抜けたようにフールの提案を反復した。
「なんだよ、思いっきり現実的じゃねーか。魔界だってーのに」
「申し訳ございません」
「それしか手段がないってんなら仕方ないな。しゃーねーや、木でも切って……って、おい、イカダを作ることができるだけの木を切る道具もないんだが?」
「ですから、小枝を編むようにして作ればよろしいのではないかと。幸い岸辺には葦も生えておりますので。」
「おお!」
長谷がぽん!と柏手を打つ。
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「葦で小枝を編み込むんだな。何重かにすれば行けそうだ。ナイフなら、オレ持ってるしな。」
「ナイフ常備してるのか、長谷?」
ポケットから携帯ナイフを取り出すと、長谷はこれみよがしにパチンと刃をカバーから起こす。
「ああ、いつどこで災害に遭遇しないとも限らないからな。」
「なるほどな。だけど…」
他に策はないものかと腕組みをして考える夕士。
「そうだ!泳いでいけばいいんじゃね?」
夕士のその言葉を聞いて、長谷もハッとするが…、続いて発せられたフールの言葉に肩を落とす。
「水温は氷点下20度でございますが……」
「・・・・。オレ小枝を集めてくるわ。」
「おう、オレは葦の方な。」
そうして、2人は、せっせとイカダ作りの材料をそろえ始めた。
小枝を編み込んでイカダを作るなど、気が遠くなる作業でもあり、イカダとして使えるようなしっかりした編み込みができるかどうかも不安だったが、ともかくやってみるしかない。
が……
「腹減ったなぁ……」
「ああ、さっき鷹の丸焼きを想像したことで、空腹度が増したしな?」
「フール、なんか食べ物ないか?」
「申し訳ございません、これといったものは何も……」
「だよなぁ………」
「本の島に渡れば、食料もそれなりにございますが」
「じゃ、急がねーと!」
ダラダラと材料集めしていた2人の動きが急に活発になったのであった。
さて、イカダが出来上がるのは、いつのことか?
できれば、彼らが空腹で倒れないうちに出来上がると良いのだが。(苦笑)